第44話二つ目の願い
アビは引き続き跪いたまま、理久を左腕だけで抱き上げたままのクロの顔を見上げ続けて言った。
「お願いしたい二つ目は…異世界同士を結ぶ魔法陣の事は、どうか、どうか、例え陛下の一族の者であっても、出来る限り周りの者に内密に伏せていていただきたいのです。あの魔法陣の存在を知ればいずれそれを使い、理久さんの世界に、そして、陛下と理久さんに仇なす者が必ずや出て参りますので…」
アビの表情は、酷く深刻だった。
三人のいるこの場に、重たい雰囲気が流れる。
異世界と異世界が結ばれていると言う事は、いずれそう言う者も出てくるかも知れない。
理久は、クロと一緒にいられる事に幸せを感じながら、魔法陣がクロと理久2人だけの問題では無くなった現実を知り受け入れなくてはならなくなった。
「アビ、お前を探させていた2人の臣下には魔法陣がどんな物か詳しい内容は教えていないし、2人は口は固い。それ以外に今、異世界と異世界を結ぶ魔法陣の事を知っているのは、アビ、お前と俺の両親と…俺と結婚するこの理久だけだ」
そうクロがそう言うと、アビは頷いた。
「なはらば陛下、もうこれ以上は、魔法陣の事は、何卒、何卒他言無用にてお願いいたします」
そして、今度はクロが強く頷いた。
しかし、慌てたのは理久だった。
「けっ…け、け、結婚!」
クロは、アレ?っと言う表情になり、分かりやすく犬耳がペタンと伏せて聞いた。
「えっ?理久…俺と、結婚してくれるんじゃないのか?」
それは、理久は、この世界でクロと生きる事を決心した。
しかし、さっき恋人になったばかりで、もう結婚で、やはり話しが進むスピードに面食らって言った。
「いや…その、いやじゃなくて…俺の世界じゃ、そんな恋人同士になってすぐに結婚する事ないから…少し時間をかけてお付き合いして、それからやっと結婚の話しが出るから、ちょっと結婚って言葉にビックリして…」
「そうだな。理久の世界はそうだったな。獣人は、会ったその日で結婚するのも普通だから…つい…」
又、あんなに強くて逞しい獣人王クロが、理久の事になると途端にしゅんとなった。
そして、それもやっぱり可愛くて、理久はクスっと笑ってクロの頭を優しく撫でて言う。
「でもクロ。クロと恋人になった先には、俺もクロと結婚する事が何より幸せだよ。それによく考えたらクロと俺の間には、お付き合いにかける時間なんて…必要無いよな。俺の世界で、あんなにずっと一緒にいたから」
こんな簡単に結婚までもう決めるなんて常軌を逸してる。
それは理久も分かっているが、クロが相手なら、この世界への不安はあるが何故か大丈夫な気がするのだ。
「て…事は、理久!俺と結婚してくれるのか?」
クロは、犬耳をピンと立て、尻尾をブンブン振り回した。
だが、今回は振り回し過ぎて、クロの背後の棚に置いてある日用品の上のホコリが舞った。
「ゲホゲホ!ゴホ!ゴホ!」
思わず、理久もクロもアビもせき込んだ。
「すまん!」
クロが慌てると、理久はやっとホコリが落ち着いて、アビが見ていたので照れながらも微笑んで呟いた。
「うん…クロと結婚する」
「それなら、理久の両親に結婚の承諾をもらったら婚約式をしよう!」
クロが又、馴染みのない言葉を発したので、理久は少し戸惑った。
「婚約式?」
「理久、俺はちゃんとした結婚式をしたいから用意に少し時間がいる。だがこの国では、結婚式をする前に婚約を結ぶ婚約式と言うのがあるからそれならすぐに出来る!」
クロは、ご機嫌がマックスになった獣の犬の時のクロ同様、犬耳をピクピクピクピクさせ、今度はホコリがたたないよう、尻尾を控え目にフリフリした。
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