第23話アクシデント2

一体何が起こったか分からず、呆然とする理久が気付くと…


理久は、クロに抱き締められ壁に背中が着いていた。


それなりに距離があったのに、クロは恐るべきスピードで理久の元に来た。


そして、テーブルの上にあった幾つかの食器がクロに当たり、その中にあった食べ物、飲み物でクロの体の後ろ半分中一面が汚れてしまった。


理久は、何一つ汚れ無かったがアワアワ焦り、クロを見た後左を見る。


すると…


床にへたり込むアベルは、同じく理久が昨日見たもう一人のかわいい系ウサギ男子リオンが盾になり、災難から庇われていた。


「大丈夫か理久?ケガは無いか?」


クロが、理久の頬を両手で持ち上げ心配一杯の表情で聞いてきた。


「う…うん…俺は…大丈夫…でも…クロ…ごめん…俺が悪かったんだ。俺が考えも無しに配膳に手を出したから…」


クロの目を見てそう言い理久は、又恐る恐るアベルに視線を移した。


そして…


この大事な時にやらかしてしまった事と

、回りの獣人達がすっかり引いてしまっている雰囲気に動揺しながらなんとか言葉を繋げた。


「ごめんなさい…本当にごめんなさいアベルさん…アベルさんは大丈夫?…」


「とんでもない。こちらこそ申し訳ありませんでした…理久様。私は大丈夫です…理久様…」


アベルも、言葉が続かない。


クロと同じ部分を飲み物などで汚したリオンにまだ抱き締められながら、顔面蒼白になっていた。


「陛下、理久様…どうか、どうかアベルをお許し下さい!アベルは今朝は体調が優れなかったので休む様に言ったのですが、他にも病気や何やらで欠勤の者が多くて、無理をして配膳しておりました。でもやはり、私が絶対にアベルを止めるべきでした!全て私の不注意でございます!」


代わりに、リオンが更にアベルを抱き締めながら、理久とクロに頭を下げながら懇願し言った。


一見、かなりベビーフェイスに見えるリオンだが…


実体は、それとは又違っている。


そこに…


「これは一体どうした事だ?!」


妃と共にやって来た前国王が、テーブルの上にあったはずの物がほとんど全て床に散乱している部屋の惨状を見て、顔を歪め声を上げた。


「まぁ…アレクサンドル!あなた何て様なの!」


妃も事情を知らないので、息子の派手に汚れた姿に眉間を寄せた。


すっかり悪くなっていたこの場の雰囲気が、、更に強い緊張感に包まれてしまった。


すると…


「父上、母上…これは、誰の所為でもありません!ちょっとしたアクシデントです。すぐに代わりの朝食の用意をさせますので、何卒ご心配無く」


クロは、理久を抱き締めたまま余裕の笑顔でそう言うと、次にアベルとリオンを見て告げた。


「アベル、ゆっくり休め。それと、リオンお前も休んでアベルの側にいてやれ。配膳は、他の配属から何人か回すよう私が後で指示する。いいか!これは、命令だ!何も心配せずゆっくり休んで、完全に直して又二人いつも通り仕事に戻れ」


「はい…ありがとうございます」


安堵の表情を浮かべた、アベルとリオンの返答が重なる。


「さぁ、全て一件落着だ!みんな、人が足り無い中済まない。今日は特別な日なので、私のポケットマネーから特別手当を大奮発するから、至急朝食の準備をやり直してくれ!」


クロがニコリとして、その場で固まる他の使用人の獣人達に大きな声で言った。


すると、すっかり冷えていた雰囲気が一気に明るくなり、使用人達はそれぞれの作業に戻った。


そして、リオンがアベルを抱き上げて退室して行った。


「ごめん…クロ…ごめん…クロ…」


確かにさっきクロは理久に、じっとしておくようアドバイスしてくれていたのに…


理久は、クロの胸に強く抱かれたまま、申し訳無さにクロの胸元の服の布を両手で掴んだ。


元々理久は、有無を言わさずクロにこの世界に攫われて来たのだ。


別にこの不慣れな世界でヘマをしようが当然なんだからと、図太く堂々とすればいいのだ。


いいだけなのだが…


理久はクロの顔を見られないまま、この異世界にいる事にすっかり自信を失ってしまった。


しかし、そんな理久の心に、クロが優しくささやきかける。


「大丈夫だ…理久…大丈夫…お前には、俺がいる…俺がいる」




























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