第22話アクシデント
理久とクロは、手を繋いだまま城の赤い絨毯の引かれた廊下を歩き続けた。
しかも、いつの間にかしっかり恋人繋ぎ
。
そして、丁度理久には不安な事がもう2つあったので、
クロが理久の手を握るのと同じ位強く、無自覚にクロの手を握っていた。
クロは、着替える前…
今朝の食事には、クロの両親を呼んでいると理久に言ったのだ。
今は違うと言っても、前国王様と王妃様
。
何を喋ればいいかパニクるし、不安だし…
もしかしたらクロが理久との結婚を真剣に考えて、早くから計画を立て両親を呼んでいたのなら…
いくら理由があったにせよ…理久がプロポーズを断ったこの状況では、いたたまれ無い気もした。
それでその時理久が戸惑うと、クロはそっと微笑んで言った。
「理久…そんな固くならなくても大丈夫だ。今回は両親はただ会ってお前に礼を言うだけだ。それに、お前には俺が側にいる」
そう言われててもやはり、理久は緊張する。
それに、朝食なのに、ナイフ、フォーク
、スプーン、その他…
食事はマナーが重視されるので、お箸派の理久には更にそれが高まる。
部屋に着くと昨夜と同じ様に、沢山の男女の獣人達が、配膳の用意の最終段階で忙しく立ち回っていた。
「理久…ちょっと一つ、言っておかなければならない事があって…」
クロは、さっき言いかけたウサギ族に対する注意事項を、又、理久の耳元で囁いた。
昨夜から色々あり過ぎて、しかも、クロの理久への恋情が余りに大きくて…
どうしてもそっちばかりに気が行ってしまい、言う期会をずっと逸していた。
「え!何?」
理久も自然と小声になる。
「理久…ウサギ族の耳だけは触るな。理由は後でちゃんと言うから…」
「うん…分かった」
しかし…
「陛下…」
背後から、獣人騎士が声を掛けて来た。
騎士もその後、クロに耳打ちした。
「理久様の…あの件について至急お耳に入れたい事が…」
クロは、理久が困る事にならないように細心の注意を払っていて、ウサギ族の注意事項を告げて安心したばかりだったが…
又、心配事を思い出さざるを得なかった
。
だがクロは、それを悟られまいとニコっと理久に笑い掛けた。
「理久、お前は先にあの席に座って、動かないでちょっとだけ待っていてくれ」
そして、今度は畳2畳ほどはある長いテーブルの右側にある椅子を指指した。
クロは、騎士と廊下に出て何やら神妙に話しを始めた。
理久がテーブルに着く。
そして…
ここまで来たらなんとしてでも、クロの両親との朝食会を何事も無く無事に成功させたいと緊張感でどうにかなりそうだった。
だから、それを少し紛らわす為にも、新ためて回りをキョロキョロ見回す。
すると、テーブルに並んだ沢山の食べ物の中に、見た事無い紫色の丸いとても珍しい果物が左側にカゴ一杯に盛られていた。
何が珍しいと言えば…
まるで宝石のように、キラキラキラキラ光っていたのだ。
だから理久は、その余りの美しさに…
悪気は全く無く、ほんの少しなら動いていいかな…と思ったが…
クロが動かないように…と言っていたので、その場から小さな子供のようにそれを珍しそうにじーっと眺めた。
「おはようございます。理久様。マガトがお好きですか?」
そこに昨日見た、召し使いの爽やかウサギ獣人男子が声を掛けて来た。
両手には丸い銀のトレーを持ち…
その上には、これから並べる他の果物の入った大きな器が乗っていた。
しかし、今日も、黒いスーツが良く似合っている。
「あれ、マガトって言うんですね…俺、初めて見る果物なんです」
理久は、クロ以外の獣人と初めて言葉を交わす。
「そうですか。とても高価で美味しいですよ。あっ、申し遅れました。私は、アベルと申します」
爽やかウサギ男子が、ニッコリ笑ったが…
だが、理久がそのアベルを良く見ると顔色が悪く、元気が余り無い。
そして、髪の生え際に薄っすらではあるが、しんどいのか油汗をかいていた。
「アベルさん…もしかして、しんどいんじゃ?クロに言うから、休んだ方がいいですよ。あっ、その果物、俺が並べますよ」
理久は、又悪気が全く無く、まるで家族のいつもの食事の配膳を手伝う感覚で、アベルの両手のトレーを取ろうとした。
だが、アベルは、酷く驚いた。
国王の大切な客人に配膳など絶対させられないと焦り、体調が悪かった事が重なり体勢を崩してしまった。
そして、テーブルの上の白のクロスを思わず強く引っ張ってしまった。
ガシャン!ガシャン!
床にテーブルの上にあった物が沢山落ち
、陶器の割れる音が響いた。
同時に…
「理久!!!」
クロの叫ぶ声が聞こえた。
そして、クロが猛烈な速さで呆然とする理久の前に立ち…
飛んで来る食器類や飛び散る食べ物や飲み物から理久をかばい抱き締めてくれた
。
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