第48話不安

魔法陣をどうするかの話しの続きは、理久、クロ、アビ、レメロンで、城の一室の大部屋で昼食をとりながらする事になった。


アビの提案は…


魔法陣の完全消失を防ぐ為…


理久が自分の世界に帰った後、魔法陣の魔力を一度停止する。


すると、理久の世界とこの世界とを結んでいる扉は一旦消失し、一時期行き来出来なくなる。


そしてその間、理久とクロは離れ離れでお互いの世界で…


クロは、魔法陣の再生に必要なサランデの花をなんとかして入手する。


理久は理久の両親に、クロとの結婚の説得をゆっくり時間をかけて慎重にする。


そして、時間はかかるがクロが魔法陣を直し、両親を説得した理久を、理久の世界に迎えに行くと言うモノだった。


王室らしい、過剰な金の装飾のゴージャスな大きなテーブルに並べられた、肉中心の昼食とは思えない豪華な品の数々。


だが理久は、イスに座りそれらを目の前にしても、全く食べる気にならなかった。


アビの提案にショックを受けて考え込んでいた。


「理久…大丈夫か?…」


その様子を見て、すぐ左隣のイスに座っていたクロが、座る理久の太ももにあった理久の左手を握って囁いた。


沈黙していた理久は、やっと我に返った。


そして、考えていた事を正直にクロ達に告げた。


「俺…この後一度自分の世界に帰って両親にちゃんとクロとの結婚の事を言うけど、すぐにこの世界に、クロの所に帰って来たい。アビさん…だから俺、明日にはこの世界に必ず帰って来るから、それまで魔法陣の力は、異世界同士を繋ぐ扉は消さないで欲しい!」


「理久!」


クロが驚きの声を上げた。


そして、理久とクロの向かいに座っていたアビは不安気に…


レメロンは冷静な表情のまま、無言のまま理久を見詰めた。


すぐにクロはイスに座ったまま理久に体を向けて背を屈めた。


そして、理久の両手を取り、クロの唇の一部に押し当てながら強く握って言った。


「理久…俺はこの後お前をお前の世界に送り届け、お前の両親にも正式に挨拶する。でも俺は、今回はこちらの世界に一人で帰ってくるつもりだ…」


「クロ!」


まるで手にクロからキスされているようで背中がゾクゾクしていた理久が、今度は声を上げた。


「理久…俺は必ずデスタイガーからサランデの花を一刻も早く手に入れて魔法陣を直してお前を迎えに行く。だからそれまで、理久、お前はお前の世界で暮らし、お前の父上と母上に俺との結婚を理解してもらい、後悔しないよう親孝行するんだ」


上目遣いのクロは、理久と見詰め合い真剣に理久に諭した。


クロの青い瞳は、優しくて実直で、キレイだ。


理久はそう思いながら、それに釘付けになりながら、何故か酷い不安に襲われた。


クロをこんなにも信頼しているのに…


何故、こんなにもクロの瞳を見て嫌な予感がするのか?


このまま長く別々の世界で離れたら、今度こそ二度と永遠に…クロに会えなくなるような不安な気持ちになるのか?


理久は理由が分からないまま首を横に振ろうとすると、前からレメロンの冷静な声がした。


「しかし…恐れながら陛下…明日の夜には、隣国のアドオンの国王が来城されます。長年我が国が損害を受け続けている不平等条約の改定の儀が行われ、成功すれば我が国の問題の一つがやっとの思いで解消されます」


レメロンがその立場から国政を憂うのは当然だ。


それがクロには分かっているから、クロは冷静に返す。


「無論承知だ。すでに迎える準備は万全で抜かりも無い。そして明日の夕刻までには必ず俺は城に帰って来て、条約改定の儀は成功させる」


「しかし…」


レメロンは、珍しく眉間を寄せ表情を崩した。


そして理久にも、レメロンの立場が分る。


それに理久は、クロ、すなわちアレクサンドル国王のもうすでに婚約者で、理久も国政には無関係では無い。


理久自身がクロの国政の足を引っ張る事もしたく無かった。


だから理久は、今まで散々人前でクロとのスキンシップは照れて出来なかったが、クロの頭に理久自身から抱き付き、今度は理久がクロを諭した。


それくらい、理久は切羽詰まっていた。


「俺、この後一人で俺の世界に帰る。だから、クロ。クロは王様としてここに残って、明日はちゃんと隣の国王様と会って仕事を成功させてくれ。俺、帰って両親にクロと結婚するって言って、明日には必ずここに帰ってくる…クロの所に帰って来るから」


理久は、クロの黒の犬耳に唇を寄せて囁いた。


クロの犬耳が、理久の息でピクピクピクピク反応する。


そしてピクピクピクピクは、何故か理久が話し終わってもしばらく続き、クロの尻尾は、緊張してるようにピンと立ち上がっている。


しかし…


「理久…2人きりで、俺の部屋で話そう」


クロは声を低く言うと突然椅子から立ち上がり、その怪力で高校生男子の理久の体を軽々と抱き上げた。


「えっ!?ちょっ!クロぉっ!」


理久は、驚き叫んだ。


「少し…時間をくれ!レメロン。アビ」


クロはそう言い、言った2人に目配せして、理久をお姫様抱っこのまま、クロの部屋へと大股で野生の風のように連れ去った。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る