第47話魔法陣

城に帰り理久とクロは、真っ先にアビとレメロンを連れて魔法陣を見に例の部屋へ行った。


部屋は相変わらず、古いモノを集めた独特の匂いがする。


するとアビは、暫く魔法陣を真剣に無言で眺めていた。


その様子を見ながら理久は、元々気楽な質で、魔法陣の事もアビならすぐに直せるとどこかで期待していた。


しかし、アビの表情は一行に浮上しない。


それ所が、魔法陣を見ながらずっと何かを考えていただろうアビのやっと発したその言葉は、理久とクロには酷だった。


「思った以上に、魔法陣の状況は悪いです…」


「えっ?!…」


理久とクロが、同じタイミングで、同じ言葉で驚く。


だが、次の瞬間クロは、右横にいた理久の肩をしっかり抱いた。


そして、理久の瞳を見た。


理久は何も言われなくても、クロに「心配するな!」と言われてるような気がして少しホッとした。


「で…どれ位、持ちそうだ?」


クロが冷静な声で、視線を向けたアビに尋ねた。


こう言う時クロは、やはり王様だ。


無闇に動揺しない。


クロの犬耳も、尻尾も、平静で動きもない。


「今日、明日消失する事は無いでしょうが…モノと言うのは悪くなり始めると、悪くなるスピードが急に早まります。きっちり何日とは申し上げられませんし、持って30日位かと…でももしかしたら、それより早まるかも知れません」


アビは理久とクロ、交互に視線を向けながら、言いずらそうにしながらも伝える。


「早急にデスタイガーの長に、サランデの花を譲って貰えるよう書状を書く」


クロは、理久の肩を抱き続けながら、そうアビに向かい言った。


だが…


「陛下、先程と同じような事を申し上げますが…デスタイガーの長に他国の王族が何か要請する時は、最終的にその王族自らデスタイガーの長に直に会いに行かなければなりません…それが、デスタイガー一族の流儀ですが…それは、陛下には余りにも危険ですが…」


眉間に皺を寄せたアビの、二度目の警告がなされた。


やはり相当デスタイガー族は危険なんだと、理久に不安がよぎる。


そして、横のクロを不安気に見上げたが、考える間など無くても間髪入れず言っていた。


「もし、どうしても行かないといけないなら、クロ!俺も行く!クロと一緒にデスタイガーの長の所に!」


理久は、クロが喜んでくれると思っていたが、クロの表情が曇り首が横に振られる。


「理久!それはダメだ!お前は連れて行けない!」


「どうして?!」


理久はクロとむかい合い、クロのシャツを両手で握った。


「どうして?それは決まってる。俺が理久を愛してるから…」


クロは優しく微笑み即答し、理久の髪をそっと撫でた。


相変わらずこんな時はクロの愛情表現は犬らしくストレートで、クロの犬耳もピンとして尻尾が揺れている。


だが、理久は「愛しているから…」と言われたのに、胸が酷く痛み呆然とする。


本当にクロは理久を連れて行かないし、置いて行かれる嫌な予感がしたからだ。


そこに、アビが申し訳なさそうに咳払い一つして話を続けた。


「理久さん、それは、僕も理久さんは陛下のおっしゃる通りになさるべきだと強く思いますが…その話しは後程、お二人だけで是非落ち着いた状況で話し合われるのが良いと思います。そして僕は先に、陛下と理久さんに魔法陣の事で提案しなければならない事があります…」


理久とクロが、アビを見た。


「提案?何だ?」


クロが、怪訝そうにした。


理久も、アビの表情から余りにいい話では無いと察した。


「実は、理久さんを理久さんの世界に一度返した後、これ以上の魔法陣の劣化を防ぎ時間を稼ぐ為にも魔法陣の魔力を止め、一度、この世界と理久さんの世界を結んでいる扉を消失させるべきだと思います」


アビは、理久とクロを見ながら淡々と告げた。










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