第41話決意
小屋の外ドアのノックは、アビだった。
「入れ!」
クロが理久を胸に強く抱いたまま、普段理久に対して出すのとは違う、低く王らしい支配者の声を出した。
こんな時のクロは本当に、理久がビックリする位迫力がある。
そして…
同性の男の理久から見ても、ビックリする位、りりしくてカッコいい。
「失礼致します…」
アビは、扉を開けそっと中に入り、そのままそこに両ひざを着き跪いた。
クロに対して、全面降伏の姿勢だった。
「クロ!アビさんは、俺が自分の世界に帰れなくなるのを心配して帰してくれようとしたんだ。俺が以前、クロのプロポーズ断ったから…だから!」
理久はクロの胸の中に収まったまま、クロから感じるアビへの静かな、しかし強い怒気にアビを庇った。
そして、アビに続けて告げた。
「アビさん…俺、この世界に移住する事に決めた…クロは、この世界のこの国に、絶対に必要な王のはずだから…」
アビは、ハッとして理久を見たが、すぐに薄く苦笑した。
「やはり…そうですか…」
「理久!お前、そんな事をしたら!もう一度、もう一度、二人で考えよう!」
クロが、表情を歪め叫んだ。
クロはまだ、自分が王位を捨てて理久の世界へ行く気なのだろう。
まだ、理久の決断に同意しかねているようだ。
そして、それはアビもそのようで、理久に念を押してきた。
「理久さん…お分かりだと思いますが、それは、ご両親と自分の体の一部をえぐられるような思いをして別れなければなりませんし…さっきも少し言った通り、多分この世界は理久さんには未知の世界で、苦労をする時もかなりあると思いますが…やはりそれでもですか?」
アビの理久を見上げる瞳が余りに真剣で湖面のように静かで…
理久は一度見入ったが、やがて口を開いた。
「一度自分の世界に帰って、一生後悔しないように父さんと母さんと話して来る。でも、俺は、必ずこの世界に、クロの所に戻って来る。どんな事があっても俺がこれから生きる場所は、クロの傍しか考えられないし、クロの傍で生きられないなら、俺はもう生きていても仕方ないんだ…」
理久にはこれ以上無い断腸の決断で、言いながら鼓動が速まる。
「理久…」
クロは、理久の言葉を聞き一度驚いたが、感極まったように、さっきから抱き締めていた理久を更に強く抱き締めた。
そして、背の差からクロの唇近くにあった理久の頭頂部分に、そっと優しくキスをした。
すると…
アビが急に視線を床に落とし、小さく呟いた。
「分かりました…」
そして…
「パチン!」
アビは、次にアビの右親指と中指で音を鳴らした。
すると、又突然…
物置き小屋から違う所へ、理久とクロはアビごと、瞬間移動していた。
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