第42話秘密の部屋

アビが再び空間移動の魔法を発動し、瞬時に、又回りの景色が変わった。


その見事さに理久は驚いた。


そして、ずっと理久を抱いていたクロは、すでに警戒心を露わにし腰の鞘から剣を抜いていて、更に理久を深く抱き締め守りの態勢になっていた。


クロの理久を抱く力から、どんなにクロが理久を強く想ってくれているかが理久に伝わる。


たが…


アビは、まだ両膝でひざまずきクロへの服従の体勢を崩していない。


そして、ポツリと呟いた。


「負け…ました…」


「えっ?」


理久は、よく聞き取れなくて、困惑しながら聞き返す。


「負けました。僕は、理久さんに負けました…」


アビはそう言ったが、理久もクロもその意味が分からない。


理久とクロは眉間を寄せ、互いを見た。


そして次に、移動した今いる広い部屋を見渡す。


嗅いだ事の無い、何か甘いいい香りがする。


そして、何やら見た事の無い花の鉢植えや草木を乾燥させたモノ…


何やら怪しげなキノコや昆虫の標本や棚の沢山の書物に満ち溢れている。


「ここは、僕の祖父の秘密の魔法研究部屋で…祖父は本当に研究熱心だったのでこんな異様な部屋ですが、危険はありませんからご安心下さい。今は僕が引き継いでちゃんと管理しております」


アビは理久とクロを見上げながら、少し微笑んで言った。


そして、理久へと続けた。


「理久さん…僕は、祖父程の才能も無いし、魔法に対する考え方も祖父とは違う所があります。僕は、祖父が得意とした、異世界と異世界を繫ぐ魔法には大反対です。理由は、さっきの魔物を見て分かっていただけると思いますが…異世界と異世界を繫ぐ事は、その個々の世界に悪しきモノを引き入れる可能性がありますし、個々の世界の調和と安定を崩壊させます」


「つまり、何が言いたい?クレメンス…貴様まさか…理久に嘘を言ったのか?」


クロが低い声と共に、アビの喉元に剣先を近づけた。


理久は、真剣の迫力に背筋が凍り、アビを庇うようにクロの名を呼び止めた。


「クロ!!」


どうしても、アビがそんなに悪人には見えなかったからだ。


アビは、自分に突きつけられた刃に動揺しないまま続けた。


「理久さんに言った、僕が祖父のように、一から異世界と異世界を結ぶ魔法陣が作れない、作れてもただの何かのまぐれですぐ消えて無くなるのは本当です。本当に、僕には祖父程の才能が無くて。でも、もしかしたら、祖父の作った魔法陣なら直す事は可能かも知れません。但し、あくまで可能性で、やってみないとは何とも言えませんが…」


「え?」


理久とクロは、同時に声を上げた。


「理久さん。僕は陛下の遣いの方が僕を探してる理由を色々な手を使い知ってましたが、異世界同士を繫ぐのは反対ですし、異世界の者同士が、そんなに簡単にお互いを理解したり愛し合ったりは出来ないと思ってました。それに、異界の者が国王の伴侶になるなんて危険過ぎるとも思ってました」


「何だと!」


クロが声を荒げたので、理久がクロの顔を見上げ名を呼び諫めた。


「クロ」


クロは理久の顔を見て、不承不承理久の静止に従った。


アビは、今度はクロに向かって続けた。


「陛下…僕は理久さんの過去を少し覗いて、陛下のプロポーズをお断りになっていたので理久さんをさらい、魔法陣は直せ無いと嘘を吐いて、このままだと陛下は理久さんを理久さんの世界に返さないかもと脅して、早く理久さんの世界へ返そうと思いました…」


「アビさん…」


理久は戸惑っていたが、アビの言っている事も理解出来る部分もあった。


「でも、理久さんは自分の世界に帰らなかった。本当に、理久さんは自分の世界に二度と帰れないかも知れなかったのに…陛下を選ばれた」


そうアビが言い終わるとクロが、剣を持たない方の手で理久を頭からぐっと抱き締め、甘々でその名を呼んだ。


「理久…理久…」


やはり、ただでさえクロはイケボなのに、こんな風に呼ぶのは超反則だと思いなから、理久は気持ちがドキドキ高ぶる。


「クロ…クロ…」


アビがすぐ目の前にいたが、理久はもう照れるのを止め微笑んで、素直にクロの胸に身を任せた。


クロは犬系の獣人で、普通の犬と同じように愛情表現が大きくて激しい。


それに対し、やはり根っからの日本男子で人前でイチャイチャなんて抵抗のある理久。


しかし、もうクロと生きて行くと決めたのだから…


アビが言ったような異種間の違いが他にもあり埋めるのなら、まずはクロの人前での愛情表現に慣れる事から始めようと理久は思った。


アビも、そんな二人を見て微笑むと更に続けた。


「そこまで…そこまで…陛下を愛しておられ覚悟されたんなら、僕の負けです…僕の出来る限り、祖父の魔法陣を直してみましょう!」


「それは、誠だな…クレメンス」


まだ理久を胸に、アビに剣と鋭い視線を向けクロが念を押す。


「はい、陛下。それにこのままだと陛下も、何があっても王位も何もかも捨てて理久さんの世界へ行くおつもりなので。私も含めこの国の国民の多くは、陛下を心より敬愛いたしております。我々も偉大な王を失う訳には参りません」


アビはそう言い終わると、スッキリしたような顔をした。


だが次の瞬間、アビは顔を引き締め懇願した。


「ですが、陛下にはお願いしたい事が2つ程ございます…」









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