第17話夢
理久の目の前に少し距離を空け、人型のクロがTシャツとジーパン姿で立っていた。
ここは何処なのか?
周りはただただ真っ白で…
ただ、クロの足元に、赤い色の訳の分からない沢山の円や記号が描かれている。
「クロ!もしかして、それ、クロのおじいちゃんのやつ?」
理久がそう言い近づこうとすると、クロが表情を歪ませ叫んだ。
「来るな!理久!」
「えっ?!」
理久が戸惑うと、次にクロは悲し気に理久を見詰めてきた。
「理久…お別れだ…もう二度と…お前に会えない…」
「えっ?!なっ…何?何言ってんの?…」
理久が更に戸惑い動揺すると、円や記号がゆっくり消えていき、やがてクロも足元から消えていく。
「待て!クロ!」
理久の叫びに、クロは悲しく微笑む。
「イヤだ!クロ!クロ!待ってくれ!」
だが…
「理久!理久!」
そのクロの声で、理久は目覚めた。
理久は、悪い夢を見ていただけだった。
眠っていたのは、端々に繊細な金細工をほどこされた特大キングサイズのベッド
。
白いシーツや枕は最高級に柔らかく、寝心地はとても良かったはずだった。
ベッドの横の机に置かれていたランプに灯が点っている。
そして、カーテン越しにも、まだ窓の外の世界が暗闇だと分かる。
理久は結局、クロの懇願に負けて、訳の分からない異世界で一夜を過ごす事になった。
クロの様々な告白の後、本格的に食事が始まったが…
「暫く会えなくなるかも知れない」の言葉が気になって、理久は食事も余り喉を通らなかった。
そしてその後、クロが犬そのものだった時のように、
「一緒に風呂に入りたい!」
「一緒のベッドで眠りたい!」
と人型のクロに激しくおねだりされた。
理久はキツく言う事も出来ず、それでも
、困惑と焦りの表情でなんとかそれらを拒否した。
そして理久は、白いローブを着て1人で眠りに入ったはずなのに…
涙でグスグスで右向きで横たわる理久の顔のすぐ前に、向かい合う形でクロの顔があった。
「理久!大丈夫か?凄くうなされてたから…悪い夢でも見たか?んっ?…」
クロが甘く優しく呟き、理久の涙を指で掬う。
いつの間にかベッドに勝手にもぐりこまれて、本当は注意しないといけないのに…
理久は、さっきの夢を思い出し、思わずクロの白いローブ越しの逞しい胸に抱き付いた。
「えっ!あっ!りっ…理久…」
クロの声が、慌てて上擦る。
「あっ!ごめん…」
理久も我に還ると、慌ててクロから体を離した。
だが、その理久を、クロが又引き寄せ強く抱き締めた。
「まだ夜中だ…俺が傍にいるから、安心して眠れ…」
そのクロの低い声と抱擁に、全身が安心感に包まれたと同時に、又、理久の体の変な分からない奥の方がキュッとした。
「で…でも…」
それでも理久は、さっきクロにベッドで襲われかけた事を思い出し戸惑う。
「なら…理久…これでいいか?」
それを察したクロはそう言うと、人型から犬に変身した。
「クロ!」
理久は、今度こそクロを思い切り抱き締めた。
「クロ…クロ…クロ…」
あの犬のクロの毛並みに嬉しくなり何度か呟き、ゆっくりと理久は再び眠りに落ちていく。
だが、その僅かな瞬間、クロの美しい青瞳が、どこか酷く寂しそうに理久に見えた。
それは理久が、まだ犬型のクロの方しか受け入れてない事をクロが分かっていたからなのか?
又、違う何かからの理由なのか?
深く落ちていく意識の片隅で、理久は、罪悪感と疑問を感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます