第16話懇願
「理久…確か、明日向こうの世界は、祝日だな?」
真顔に戻ったクロが跪いたまま、理久に尋ねた。
「クロ…あんな短い間しか向こうにいなかったのに良く覚えてるな」
理久は感心した後、「うん」と頷いた。
「実は…今日理久を迎えに行く前に、俺はすでに一回向こうへ行ってた…」
実はクロは、自分の両親に理久の事を相談し向こうの世界の服を作らせた後だったが…
理久を迎えに来るまでに、どうしても調整したい事があった。
だが、その以外な言葉に、理久の心臓が跳ねた。
「じゃぁ、その時、俺の事、見に来なかったのか?俺の事!!」
理久が叫び、今度は興奮したようにクロの両手を自分のそれで握った。
「理久!見に行った…当たり前だろ…お前に死ぬ程会いたくて見に行った。お前の学校まで行って、お前が勉強してる姿を暫く…いや……隠れて…結構長い時間見てた…」
クロのその言葉が声が理久の胸に突き刺さるが、理久は、拗ねるような言葉が止まらない。
「どうして…どうしてその時、出て来てくれなかったんだ!俺、1分でも、1秒でも、お前に早く会いたかったのに…」
「あの時は…学校の邪魔したく無かった
。それに…」
「それに?…」
この後クロは、一瞬間を置いたが…
「迎えに行く日は、決めてたんだ。今日だって。理久の両親が今日から旅行に行くって分かったから」
確かに、今日から理久の両親は、1泊2日で温泉旅行に行った。
親戚が懸賞で当てたが、行けなくなったからと母に無償で譲ったものだ。
だが母は、クロを探して精神を消耗していた息子を心配して中止しようとしたが
、父は割と呑気な質で…
「その内理久も元気になるから放って置け」と、母を無理矢理連れ出した。
「ごめん…でも、理久と、理久と2人きりで、ゆっくり話しをする時間がどうしても欲しかった。それには今日がどうしても良かったんだ…」
いつの間にか、理久とクロの両手が入れ替わっていて、又クロが上から理久のそれを優しく握る。
しかし、その後、事態は理久の思わぬ方向へ進んだ。
クロが突然、理久に今日と明日二日この世界で一緒にいてくれと言ってきたのだ…
「もしかしたら、俺が忙しくなって、暫く会えなくなるかも知れないから…」
クロが静かにそう告げると、理久はギョッとした。
「え?!どれ位?どれ位会えなくなるんだ?」
それにクロは、少し困ったように笑うと突然立ち上がり、座ったままの理久の頭をクロの下腹に押し当てて強く抱き締めた。
そして…
「大丈夫、理久…大丈夫、大丈夫だ…」
何故かクロは、理久に言っていると同時に、まるでクロ自身に言い聞かせているかのように呟いた。
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