第33話黄金の隧道(トンネル)

クロがアビをずっと探していたなんて、理久には思いもよらない事実だった。


「ウソ?なんで?なんで、クロがアビさんを?」


理久は、緩めたとはいえアビの黒マントの胸元を掴んだまま、興奮気味に返事を迫った。


「それは…理久さんも見たでしょう?この世界と理久さんの世界を結んでいる魔法の紋様、魔法陣を…」


アビは、少し苦笑いして言った。


理久は頭の中に、クロの城の中で見たアレを虚ろながら思い浮かべた。


「魔法の…紋様…って…なんか…丸が一杯描いてあって、なんか他にも分かんない模様とか字とかもあるやつ?」


「ええ…そうです。実は、アレを描いて魔法陣を完成させたのは、僕の祖父でして…」


理久は、ポカンとしてしまう。


「理久さん…その魔法陣、一部消えかかってませんでした?」


アビは、眼光を光らせた。


「そ、それは…確かに少し薄い部分があったような…」


「そうですか…、人ずてに聞いたんですよ。祖父のどこかにある魔法陣が消えかかってて、直す為にアレクサンドル陛下が臣下を使って顔も知らない孫の僕を探していると」


「え!…」


「祖父の日記を読んで僕も城に魔法陣があるのは知ってはいたんですが…でも、僕はこの通り、祖父と違いポンコツの魔法使いで…偉大な祖父の魔法陣は直せません。ですが、僕以外でも、あの魔法陣を直せる程の魔法使いも今はどこにもいないでしょう」


「えっ…」


「それに、僕は魔法使いは引退してまして…もう、魔法にはあまり関わりたくは無かったんです。兄も、魔法使いの素質は一切受け継いでませんし」


理久は、ただ黙って聞くしか無かった。


「でも、、なんかこう、どうにも気になって…こっそり事情を探ってたんですが

、今日もたまたま陛下と理久さんの後を付けていたら、たまたまイヤな奴らにぶつかってしまって…理久さん達に助けて貰ったんですよ」


理久は、アビから手を離す。


「理久さん…本当にありがとうございました。助けてもらわなければ、今頃僕はどうなってたか…」


「それは…俺は何もしてないよ…クロが全部やってくれたんだ…それに、事情は深くまで分からないけど、クロなら、アビさんがちゃんと話せば絶対に分かってくれるよ。今すぐクロに話そう…」


理久は、今度は、アビの両肩に自分の両手を置いて諭した。


だが、理久は本当にそう思っていた。


しかし、理久はそう自分で言い、内心自分でビックリしていた。


やはり理久自身、獣人のクロを、ほんの短時間でこれ程に信頼してしまっていたのだ。


所が…


アビは、急に顔だけ後ろに向け、次に何か理久が聞き取り辛い言葉を小さく発した。


すると…


前方のただの暗闇に、人が一人充分通り抜けられる、黄金色に輝くトンネルが延びて出来た。


その中は、キラキラと金の粒子が舞い、とても明るく美しい。


理久は、驚きで目を見張る。


アビは、再び理久の方を向いたが、理久からすぐ目をそらせ言った。


「理久さんには悪いとは思ったんですが

、僕は水晶で少し透視も出来まして、理久さんの過去を少し覗かせてもらいました…」


「え?!そんな事出来るの」


理久はトンネルを見ていたが、アビを見て焦る。


「ええ…それで…すいません…理久さんが、アレクサンドル陛下に無理やりこちらの世界へ連れて来られて、陛下のプロポーズも断った事を知りました…」


「あっ…えっと、それは…それはですね…」


「このトンネルは、理久さんの生まれた世界にちゃんと通じてます。理久さん…今すぐここを行き、アレクサンドル陛下には黙って御自分の世界にお帰りなさい…これが僕の貴方へのお礼です」


アビはそう言い、トンネルを指さした。


「え?!」


「魔法陣は直せません。そして、消えてしまうといつか理久さんは、ご両親のいる元の世界には帰れなくなります…そうなればアレクサンドル陛下は、理久さんを理久さんの世界に帰さないかも知れません…」


「えっ!…」


「そうなる前に、今すぐアレクサンドル陛下には黙って、理久さんの世界へお帰りなさい…理久さんが無事お帰りになったのを確認したら僕は最後、あのトンネルを2度と通れないよう閉じ、城の魔法陣も陛下にわからないように全て消し去りますから…そうすれば理久さんは、ニ度と陛下と会わなくても済みますから」


理久は、言葉を失って固まった。


「さぁ、早く、僕の作ったこのトンネルは、たまたままぐれで出来たモノですし、このトンネルも長く持ちません!」


アビの声に、焦りが浮かんだ。

















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