第38話魔物
暗闇の世界。
その中の前方に走る、理久の世界に続く黄金のトンネルの光が…
暗闇に空いた穴から、顔だけを覗かせた魔物を照らした。
その顔は、理久が散々プレイしたゲームの中のトロールに激似だった。
凶悪で粗暴。
それが顔に出まくっている。
そして、カタコトで気持ちの悪い事を言う。
「ヒトノオトコ、キモチイイ。オイシイ」
(ヤバい!)
理久がその魔物を、亀裂に構わず出てこれないよう押し返えすべきか悩んだ時…
亀裂が大きく崩れ、理久の前に、魔物の全身が現れた。
身長が70センチあるかないかの小さな体には、黒い羽が付いている。
それをブンブンと嫌な音をさせながら飛び、魔物は、体に見合わない大きな剣を持ちチラつかせニヤリと嗤う。
そして、そんな同じようなのが何体もその後ろにもいる。
魔物が、剣を大きく振り上げた。
理久は、間に合わないかも知れないが必死で足を動かせ逃げた。
「理久さん!!!」
アビは助けに走ったが、その瞬間…
疾風のようなモノがアビの横を駆け抜けた。
そして…
「ギッ!ギャッ!」
魔物が、赤い血を体から吹き上げながら、不気味な声を上げ下に墜ち転がった。
理久は、何が起こったか分からず立ち上まり振り返った。
すると、理久の前にクロの背中が見えた。
クロの振るった抜き身の剣が、魔物を一刀で斬り捨てたのだ。
アビの家の庭の空間に突然出現した小さな亀裂にクロは、それを崩しこの場に入ってこれた。
「ギッ…ギギッ…」
クロが残りの魔物達を睨むと、そのクロの大きな野獣のような圧に、魔物達は鳴き声を上げながら後に下がった。
「理久…大丈夫だ!俺を信じろ!」
クロが、魔物を睨みながら左手を後ろにやり、、近づいてきた理久の体をクロに密着させた。
「クロ…信じてるよ、ずっと前から…」
理久はこの状況なのに、酷く落ち着いた口調で言った。
その言葉に、前を向いたままのクロの背中がピクリと反応した。
「ギッ…ギギッ…ギギギッ…」
剣を手に魔物達は、クロとクロの抜き身の剣に圧倒され、更に後ろに下がる。
それを見計らい、アビが、崩れた暗黒の壁に向かい呪文を唱えた。
崩れて散ったはずの黒い量子が、動画の逆再生のような動きをして再び結び付き合う。
すぐに崩れた部分が修復され、魔物は壁の向こうに消えた。
そして同時に、他の亀裂もキレイに修復された。
理久はホッとしたが、次の瞬間…
アビは、クロに深々と頭を下げた後、クロを真っすぐ見て言った。
「陛下。わたくしが、陛下がお探しになっていた、魔術師、ルディ・クレメンスでございます。わたくしが先走り、理久様に大変なご迷惑をお掛けしてしまいました。詳しくはこの後、陛下に全てお話いたしまして、この件の処罰を必ずお受けします。ですがその前に、わたくしにはすべき事がございまして…」
アビは、あの黄金のトンネルを指さしながら、今度は理久を見た。
「理久様。あの理久様の世界に今すぐ帰れるトンネル、本当に封じて消し去っても良いのですね?」
「うん!消してくれ!」
理久は、笑顔で即答した。
「理久…」
クロは、状況を全て把握できていない不安から理久を呆然と見詰めた。
「でわ…」
アビが突然、又暗黒の空間に穴を開けた。
驚く理久とクロに、アビは再び頭を下げて告げた。
「この穴の先は、さっき、陛下と偽者の理久さんのいた物置き小屋です。わたくしは、トンネルとこの空間ごと魔物の死体を処理した後、すぐにお二人の後を追いますので…」
クロは、まだ剣を手に疑うようにアビを見たが、理久はアビの言葉を信用した。
「クロ…アビの今言ってる事は絶対大丈夫だよ。一緒に帰ろう!クロの世界へ!」
理久はそう言い、クロの剣を持たない左手をギュっと握り締めた。
「理久…お前となら、何処へでも行こう…」
クロも、笑顔で即答した。
クロが率先して、理久と二人手を繋いだまま、その繋がった向こうの空間へ渡る。
確かにさっき、クロと偽者の理久がいた物置き小屋だった。
やがて穴が小さくなり消え、ずっと頭を下げ続けたアビが見えなくなった。
それを理久は、クロと手を繋いだまま見届けていたが…
突然、剣を自分の腰の鞘に戻したクロが、理久を抱き締めてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます