第39話物置き小屋
物置き小屋の中で…
理久とクロは立ったまま…
今こそはクロが、本物の理久を強く抱き締める。
雑多に、壺や色々な日用品が棚や床に置かれ、ムードも無いが…
理久は、ここと同じ場所でのさっきのクロと偽者の理久の二人きりのシーンを見ていただけに…
今全く同じシチュエーションで…
クロが抱き締めたのが偽者の理久でなく、本物の理久、自分であってくれて本当に嬉しかった。
「クロ…」
理久は顔を紅潮させたが…
すぐおずおずとだが理久もクロを抱き締めた。
やがて、理久とクロは静かに目を閉じて、暫くただ無言で抱き締め合った。
物音一つしない、静かな刻がどれだけ経ったか…
「理久…クレメンスから魔法陣の事を聞いたか?…」
クロが、少し理久の体を離し申し訳なさそうに呟いた。
「聞いたよ…クロ……」
理久は、クロの顔を見上げ事実を告げたが、クロの気持ちを少しでも軽くして上げたくて微笑んだ。
「黙っていてすまなかった。でも、なんとしてでもクレメンスを見付けて魔法陣を完治すつもりだった…それに…」
「それに?…何?」
「それに…理久に魔法陣が消えかかっている話しをして、理久にどう言われるか…俺は…俺は…怖かった。今すぐ自分の世界に帰りたいとか、魔法陣が消えるならもう俺に会えなくても仕方ない…もう会えなくてもいいと言われるんじゃないかと…」
そう呟いた獣人クロの頭の犬耳がペタンと伏して、尻尾も下がりしなしなにしなびた。
犬のクロも向こうの世界で、理久の学校の帰りが遅くて気持ちが沈んだ時などはこんな感じだった。
獣人のクロは理久より長身で筋肉もある逞しい男なのに…
しかも、この世界のこの国の獣人王で、沢山の者の上に君臨する身分で…
さっきも、沢山の魔物相手にも全く怯む事も無かったのに…
理久の事ではこうなってしまう。
分かり易い反応とそのギャップに、理久は胸がひどくザワつく。
そして今度、これもよく、犬のクロが理久に甘える時にした仕草だが…
クロは理久の左肩に、クロのおでこをそっと乗せ言った。
「俺は、ちゃんと理久と話しをしたい。俺は、理久とこのまま別れて二度と会えなくなるなんて…どうしてもイヤなんだ…絶対に絶対にイヤだ!」
なんだかさっき、理久が言ったのと同じような事をクロが言った。
クロは、その場にいて聞いていなかったのに…
まるで、以心伝心のようだと理久は一瞬ハッとしたが、すぐに…
「俺も、同じ気持ちだよ…クロと…同じ気持ちだ。二度と会えなくなるのはイヤだ…」
理久は、クロの長い黒髪を、犬のクロにするように優しく撫でた。
するとクロは、途端に…
犬耳と尻尾がピンと立ち上がった。
そして、犬の時と同じように、理久に甘えてくるように、鼻先や頬を理久の首に擦りつけた。
だが、その内ゆっくり顔を上げたクロは、理久を見詰めながらまだ不安気な表情だった。
「理久が二度と会えなくなるのがイヤなのは、犬のクロか?それとも…獣人の俺か?」
理久は、クロの髪を撫でながら、穏やかな微笑みで返した。
「二度と会えなくなるの、どっちもイヤだ!犬のクロも、アレクサンドルのクロも!」
「俺が、獣人の俺が好きか?理久がその…獣人の俺の恋人になってもいい位…今の姿の俺が好きか?」
息が止まりそうなキレイな青眼と整とた顔で理久を見詰め、しかも、下半身にくる甘い吐息混じりの美声で、クロが理久に囁いた。
実際、クロのその声だけで、理久の男の証のアソコが、僅かだか勃ってしまった。
「うん…俺…獣人のクロの恋人になりたい…」
理久は即答した。
これから先、理久は自分の世界に帰れなくなるかも知れない…
そして、今いるこのクロの世界がどんな世界かも殆ど分かってない。
それなのに、「クロの恋人になりたい…」なんて答えを出すのは、無茶で速すぎるかも知れない。
他人からは、バカなんじゃない?と言われるかも知れない。
だけど、もうこの気持ちを、悩んだり誤魔化したり止めたり出来なかった。
すると…
クロが顔を傾け、理久の顔にそっと寄せてきた。
理久も自然と今度は自分からも、クロの唇に理久の唇を近づけた。
こうなるのが至って自然で当たり前のように…
一つになるべき、二つに別れていたモノがやっと合わさるように…
理久とクロは、お互いを求めて唇を重ね、キスをした。
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