第36話誘惑

「クロぉ…」


偽者の理久は、更に強くクロに抱きつき、甘える声でクロを見上げた。


「クロ!違う!それ俺じゃ無い!俺じゃ無い!」


理久は、暗黒の世界の一端に鮮明に映るその二人の様子に更に叫んだが、その声はクロには届かない。


それ所かクロは、偽者の理久に顔を近づけていく。


ゆっくり…ゆっくり…ゆっくり…


偽の理久もゆっくり目を閉じた。


(キスする!ウソだろ!)


理久は言葉を失い、息が止まりそうになる。


しかし…


「お前…誰だ?近くで見れば見る程理久にそっくりだが…」


クロは、偽理久をマジマジ見詰めながら呟いた。


そしてクロの声は、怖い位、地を這うように低い。


偽理久は、てっきり自分がキスされると思っていたのにビックリして瞼を開けた。


「え?クロ、何言ってんだよ。俺、理久じゃん!」


「違う…お前は、理久じゃない…」


「クロ!どうしたんだよ!俺は、理久だよ!」


偽理久は、必死にクロの両手を、自分のそれで握った。


たが…


「他の奴は騙せても、俺は騙せんぞ…答えろ…本物の理久は何処だ?」


一瞬、無言の時間が流れる。


だが、余りにクロの声も視線も厳しくて、偽理久は早々に諦めた。


「なーんだ…上手くやってたと思ったのに…でも、本物の理久なんてもうどうだっていいじゃんか!この世界へ来ても、うだうだうだうだクロが獣人なのを悩んでるような奴!」


偽理久は、又クロに無邪気っぽく抱き付き、その顔を見上げた。


本当の理久は、偽者にズバリを言われてしまい腹が立つ反面、自分を正当化出来無かった。


だがクロは、偽の理久を自分の体から離し言った。


「俺が急に現れて本物の理久が色々悩むのは当たり前だ。俺だって最初は、俺が獣人だとバレたら理久に嫌われるかも知れない、どうしたらいいかうだうだ悩んだ…本物の理久は何処だ?!」


偽理久は、クスっと笑った。


「あ~あ、残念だけど…本物の理久は、クロに黙って自分の世界へもう帰ったよ!」


「ウソ付くな!俺はまだ帰ってない!」


本物の理久は叫ぶと、クロの所へ帰してもらおうとアビの元へ走ろうとした。


だが、先ににクロが動いたのが見えて返って理久は動けない。


そこに…


「どこ行く気!!」


偽の理久がクロに抱きつき、それを止めた。


「理久の後を追う!」


クロは、城内の魔法陣から理久の世界へ行くつもりだ。


「待って!待って!クロ!後を追っても無駄だよ!理久は、窮屈で息が詰まると思っていても自分の世界を絶対選ぶよ!その方が楽に決まってんじゃん!自分の世界を捨てる勇気なんて無いよ!」


偽の理久は、必死だ。


そして今度はクロに抱きついたまま、クロの目を見て妖しく誘う。


「クロ…俺なら、今すぐここで抱けるよ…クロになら俺何されてもいいよ。可哀想に…クロ…あいつにずっと待てされて、ずっと我慢させられてただろ?アソコ…痛い位におっきくさせてたんだろ?理久も同じ男でおあずけがどんなに辛いのか分かるはずなのに…本当に可哀想そうに…クロぉ…」


偽者の理久の右手が、クロの股間に降りていった。

















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