第3話kiss
男は、すぐそっとしゃがんだ。
そして、まるで王子が姫君にするように地面に片膝を付き跪き、ベンチに座る理久の両手を握った。
男の手は、大きく、温かい。
まだ涙の止まらない理久の目の前に男の顔が来て、見上げてくる。
やはり、深青の瞳がクロに似てる…
だが、理久がそう思ったのも束の間、男の逞しい腕の右手首に視線が行った。
そこには、理久がお小遣いでクロに買ってやったブルーの合皮の首輪に似た物が
、まるで長さを加工されたようになって巻かれていた。
「理久…」
男は、甘く囁くように呼びかけてきたが
、理久は男の瞳を再び見て戸惑う。
(だから…何で俺の名前、知ってるんだよ?)
理久は、そう聞きたいのに、声が出ない
。
まるで、深青の瞳に魅入られてしまったかのように。
ただ、ドキドキドキドキと心臓の動きが激しい。
「この、首輪、理久が自分の少ないお小遣いで俺に買ってくれたんだよな…俺の青い目と同じ色だと。俺、凄く…うれしかったよ」
男が、自分の右手首を見て微笑んだ。
「え?!」
理久は、男が何を言ってるのかが分からない。
そのまま固まっていると、男のその右手が、理久の左頬に触れた。
そして、そのまま男はあろう事か、理久の左頬に流れる涙をペロペロペロと舐めだした。
驚きの余り、声も出せす固まる理久をよそに、次は、右頬の涙を舐める。
そして、理久は思い出す。
クロは、理久が家でドラマや映画を見て泣いていたら、こんな風によく顔を舐めてくれた。
男は、クロと舐め方がよく似ていた。
折角涙を取り去ったのに、その思い出に又、理久の両目から涙が溢れ流れ落ちる
。
「理久…もう…泣くな…俺はクロだ。お前の所に帰って来たから…」
男は、次に理久の唇に、男の唇をそっと重ねた。
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