第28話マガト
理久は、クロと手を恋人繋ぎしながら…
頭にフードは被ったままだったが、体全体に水路の優しい風を感じながら…
ゴンドラから眺める、異世界の美しい西洋風の町並を長い時間堪能する。
理久に体を密着させ横に座るクロの、尻尾が機嫌良さそうにフリフリされる。
背が高く筋肉もありガッチリした体格で
、正に獣のようなクロだが…
理久はそれを見ているとなんだか、クロがめちゃくちゃかわいく見える。
町の至る所に走る水路には、いくつもの美しい眼鏡橋が掛かる。
そこから、色々な見た目の獣人達が、たまにこちらに手を振ってくれ…
下を通り抜ける理久とクロは、それに応え振り返す。
遠くには、巨大な大聖堂や大きな離宮も見える。
このまま、クロとどこまでも、どこまでもこの世界を旅したい気持ちだったが…
やがてゴンドラは、沢山の獣人が行き交う巨大露天マーケット近くの船着き場に着き…
クロは、理久の手を握ったままゴンドラを降りた。
クロは、理久の手を離さない。
男同士だし…と、理久は回りを気にしたが、獣人達は、誰もそんな事を誰も気にもしてない。
すると、遠くからいい香りがした。
さっき理久が食べそこねたこの世界しか無い、プリンスメロン程の大きさのマガトの実だ。
露天の台で、沢山の他の珍しいフルーツと共に、4分の1にカットされた物や丸
々一個が並べられ売られている。
相変わらず皮も身も、紫の宝石のように輝いている。
「理久…」
その前で立ち止まった理久に、クロが心配そうに声を掛けた。
きっと、さっきの失敗を思い出したんだろうと、クロが心配してると思った理久は…
クロのお陰でもう大丈夫と言う思いを込めて微笑んで言った。
「美味そう!」
クロもニッコリして、すぐにカットした物を一つ買ってくれた。
そしてそのまま、クロ自身の手で理久の口元に持ってきてくれた。
「あっ…えっと…」
一瞬理久は戸惑ったが、嬉しそうにニッコリしながら尻尾か揺れるクロを見て、カプっと控え目にマガトの果肉にかぶりつく。
そして、驚愕した。
「うっ、うまい!」
なんだろう…日本では食べた事ない味。
そして、凄くとろけるように甘いのだが
、どこかサッパリもしてる。
「じゃぁ…次、クロの番!」
理久は、クロからマガトを取って、同じように右手でクロの口元に持っていった
。
クロは一瞬驚くが、目を細めクスっと笑い、理久の噛み跡丸々の部分をガブリと一口いった。
すると…
スーっと一筋、マガトの汁が理久の指の間や手の甲に流れる。
クロはそれを見て又クスっと笑いマガトを取り上げて、理久の右手を持ち上げて付いた果汁を…
理久の指の間からペロペロ嘗め始めた。
「えっ!クロ!」
こんな沢山の公衆の面前で!
と、理久は即赤面し焦る。
「おっ、いいねぇ~!仲が良くて、おじちゃん羨ましいよ!」
屋台の獣人主人が本心からそう言っているようで、ほぉ~っと呆けたように理久とクロを見た。
しかし、回りの行き交う獣人達は、まるでそれが当たり前の光景のように気にしない。
この世界は、なんか不思議だなぁ…と、理久が思っていると…
クロの舌が、理久の手の甲へ下りてきた
。
クロの鋭い犬歯と人と違うザラザラした舌が触れる度、理久は体がピクピクと反応した。
「あっ!クロ!」
思わず理久は、クロから自分の手を思いっきり引いてしまった。
すると…
顔を真っ赤にして動揺する理久を見てクロは、又クスっと笑って、理久の耳元で吐息のように囁いた。
「残念…もっともっと…理久をナメたかったのに…」
突然…
精一杯誤魔化すように理久は、クロに背を向け向こうの方を指さした。
「あっ…あっ…あっちに、何か…肉の匂いがする…行ってみたい…」
「御意…おおせのままに…」
クロは再びクスっと笑い、まるで理久の方が王であるかのように言った。
その後、理久とクロは、仲良く又手を繋ぎ、色んな物の食べ歩きを堪能していたが…
突然、向こうの人混みの中から男の叫ぶ声がしたかと思うと…
俄にその周辺の獣人達が集まり出し騒がしくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます