第23話

ああ、身体が動かない。


ここからすぐにでも逃げ出したいのに。


この子から少しでも遠くに行きたいのに。


そんなことを考えていると、安達さんは勝手に話始めた。


「ねえねえ、櫻井がいなくなってから学校めっちゃつまんないんだけど。また前みたいに遊ぼうよ。今の高校でさ新しい友達とかもできたからさ、そいつらも今度は混ぜてさ。てか今も近くにいるんだけど来いよ。」


そういって安達さんは私の腕をつかんで引っ張ってきた。


「ご、ごめん。今日体調悪くて、学校も早退してきたの。だから今日は一旦帰らせて?」

ああ、なんて弱いのだろうか。なんでもっとはっきりと断れないんだろう。

「あ、だからこんな時間にいるんだ。変だと思ったんだよね。あんたどうせ高校でも優等生ぶってそうなのにこんな時間に駅にいるから。でも体調とか、ほら、関係ないから。来いって。」

そう言ってぐいぐい私の腕を引っ張ってどこかへと連れて行こうとする。


その間も安達さんの話はとまらない。


「あー、あの頃はまじ楽しかったな。自由だったし。さすがにさ、うちの高校はさ外部からもいろんな奴らが来てるから気は使うんだよね。その点、小学校中学校は良かったよね。まじで何でもありだったし。」


そんなことを言いながらへらへらと笑う。


この子は全然反省なんてしていない。なんならあの時の記憶を後ろめたいこととも思っていない。


どんどん思考が冷めていく。


自分があほらしい。なんでずっと私だけが、忘れたいと思っていたのか。なんでずっと私だけが、負の感情として、トラウマとしてこの記憶を持っていないとだめなのか。なんでずっと私だけが、この記憶を持ったまま生きていかないとだめなのか。


答えが出たら簡単だった。


あの安達さんの手を振りほどくことだってできた。

安達さんの声を無視することだってできた。

無視したら肩を引かれて安達さんの方を向かされ、顔を叩かれた。

でもそれすらも無反応で、そのままその場からいなくなることだってできた。


安達さんが何か後ろで言っている気がする。

でも声が小さくて聞こえにくい。


私はあてもなく歩いた。

でも目的は明確になった。


もっと早くこれができていたら何かが変わったのかもしれない。

でももう遅い。

きっとまた過去に戻っても過去の私にはできない。


そういえば、昔からそうじゃないか。私はいてもいなくても何とも思われないんだから。


そういわれたじゃないか。


もう疲れた。もういいや。

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