第9話

屋上に着くと何組が先客がいた。

私は極力、人が少ないところを探した。


屋上の扉の反対側が人がいなかったため、そこで休憩することにした。


手すりにつかまり、下を覗き込む。


ここから落ちたら確実に死ねそうな高さである。ただ成功したとしても失敗したとしても痛みが伴いそうで暗い気持ちになった。


日差しはあるが、風が気持ちいい。このまま皆の記憶から自分のことだけを吹き飛ばして欲しくなる。


これだけ高さがあれば痛くても一瞬なのではないか。

手すりを握っている手に力が入り、少しずつ体重の重みが伝わる。



「櫻井。何してんの?誰か見てんの?」


急に声をかけられてびっくりした。

「。。。ああ、びっくりした。神原君達か。」


タイミングが良すぎて自分が何をしていようとしていたのかばれたのかと思った。


「櫻井さん。誰か気になる奴でもいるの?運動場の方じーっと見つめて。」

瀧芝君が神原君の後ろから顔を出しながら話しかけてきた。

「そんなんじゃないの。ただ、皆なにしてるんだろうなあって思って眺めてたの。瀧芝君達は屋上に休憩に来たの?」


手すりを握っていた力を緩め、心臓の鼓動を落ち着かせるようにゆっくりと身体ごと振り返った。


「そうそう。久しぶりに屋上行こうってなって。意外と空いてたし、櫻井さんに会えたし、ラッキー。」


瀧芝君はくしゃっとした笑顔をこちらに向けてくれる。

「ふふ、瀧芝君は上手ね。」


その時ふと神原君の方へ視線をやると、何故か少し不機嫌そうだった。


瀧芝君に無理やり屋上に連れてこられたのかな。


そんなことを考えていると神原君の口が動いた。

「ねえ。あっちの日陰でさ、話さない?」


「私も参加していいの?」

先ほどとは違った心臓の鼓動を感じた。


「もちろんだよ。むしろ和と2人きりなんてむさくるしいし是非。」

「お前なあ、いつも寄ってくるのはお前からだろうが。」

「ばか、俺が行ってあげないと寂しがると思っての気遣いだろ。」


2人の言い合いもただのじゃれあいに見える。

微笑ましくなって自然と目元が緩んだ。


「ほら、櫻井こっちこっち。」


神原君が手招きしてくれる。私がどこに座ればいいか迷わないように、手で地面をぽんぽんっとたたく。そちらに導かれるように私は2人と座った。


「和と櫻井さんはさ、地元一緒でしょ。和は昔どんな感じだったの。昔から天然たらしだったの。」

すぐに瀧芝君が話始めた。


「なんだよ天然たらしって。」

「そういうわかってないところが天然なんだよ。」

「ふふ、そうねえ。」


私は少し間をおいてから、

「今と同じで男女関係なくいろんな人から好かれてたかな。友達も多かったイメージ。」

と言った。


本当に神原君は男女ともに好かれていた。特に、いわゆるスクールカーストのトップからは小学校も、中学校でも告白されていたはずである。


「うわー、つまらねえ。もっと黒歴史とかないのかよお前。」

「そんなこと言われて素直に言う奴がいるか。」


その告白を断ったのは何故だったのだろう。

告白を受ければ良かったのにのと思う自分と、断るしかなかったと諦めている自分がいた。

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