第8話

「なあ、まだ時間あるし、屋上でも行かね?」


そう言われたのはお昼ご飯を食べて教室に戻ろうとしていた時であった。


「屋上か、久しぶりに行ってみるか。」

前は行くことも多かったが、お昼の屋上は人が多く、食堂の美味しさに気付いてからはあまり行くことはなくなっていた。


「もう皆食べ終わってくる頃だし、日差しは強いし、意外と空いてるかもな。」


だったらいいけど。

そう思いながら、屋上へと続く廊下を並んで歩いた。


屋上の扉を開けると3組しかいなかった。

「ほら、やっぱり空いてたな。ラッキーじゃん。」

雅人の髪の毛が太陽の光で明るくなっている。

「風は涼しいし、思ってたよりも暑くないな。」

俺は腕を伸ばして屋上の解放感に心地よさを感じた。


ちょうど俺たちが入ってきてすぐに2組が屋上をあとにした。


「なあ、反対側に行かね?誰かいるかな。」

雅人は屋上の扉の反対側に回り込もうとしていた。


確かに今の時間はあっち側の方が屋上の入り口の陰があって、休憩するにはちょうどいいかもしれない。


雅人に付いて反対側に向かうと、雅人が急に立ち止まった。


「なんだよ。急に止まるなよ。」

「しっ。静かにしろ。誰かいる。」

雅人がこちらを振り返り、口の前に指をたてる。


別に誰かいてもいいだろ。そう思いながら、雅人の肩口から向こうを覗き見る。



そこには櫻井が屋上の手すりをつかんで立っていた。

誰かを見ているのか、じーっと下を向いていた。


「誰か見てるのかな。もしかして気になってる奴だったりして。」


俺は何故か櫻井の腕を引っ張りたい衝動に駆られた。


手すりがあるから大丈夫なはずなのに、櫻井の髪の毛と制服が風で揺れているのを見ているとそのまま風に吹かれて下に落ちてしまうんじゃないかと不安を感じた。


「櫻井。何してんの?誰か見てるの?」


思わず俺は前にいる雅人を避けて櫻井に話しかけていた。


櫻井はビクッとしてこちらを振り返る。

「。。。ああ、びっくりした。神原君達か。」

櫻井はいたずらを見られた子供の用にばつの悪い顔をしていた。


「櫻井さん。誰か気になる奴でもいるの?運動場の方じーっと見つめて。」

雅人が俺の後ろからひょっこりと顔をだした。

「そんなんじゃないの。ただ、皆なにしてるんだろうなあって思って眺めてたの。瀧芝(たきしば)君達は屋上に休憩に来たの?」


櫻井は手すりから手を放してこちらに身体をむけた。


「そうそう。久しぶりに屋上行こうよってなって。意外と空いてたし、櫻井さんに会えたし、ラッキー。」

「ふふ、瀧芝君は上手ね。」


なんだか面白くなかった。


「ねえ。あっちの日陰でさ、話さない?」

俺は屋上の壁を指さした。


「私も参加していいの?」

「もちろんだよ。むしろ和と2人きりなんてむさくるしいし是非。」

「お前なあ、いつも寄ってくるのはお前からだろうが。」

「ばか、俺が行ってあげないと寂しがると思っての気遣いだろ。」


俺達のくだらない言い合いを櫻井は微笑みながら聞いていた。


「ほら、櫻井こっちこっち。」

俺達3人は円をつくるように座った。


「和と櫻井さんはさ、地元一緒でしょ。和は昔どんな感じだったの。昔から天然たらしだったの。」

「なんだよ天然たらしって。」

「そういうわかってないところが天然なんだよ。」

「ふふ、そうねえ。」


俺は櫻井が昔俺をどう評価していたのか気になる反面、何故か耳をふさぎたくなった。


「今と同じで男女関係なくいろんな人から好かれてたかな。友達も多かったイメージ。」

「うわー、つまらねえ。もっと黒歴史とかないのかよお前。」

「そんなこと言われて素直に言う奴がいるか。」


櫻井の話を聞いて、俺は胸が締め付けられるような感じがした。

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