第15話

「おはよう。」


「おはよーう。昨日のドラマ見た?」


「おはー。てか最近若干涼しくなってきてね?」


朝の喧騒が心地いい。

私の存在を薄くしてくれているように感じる。


あの後アルバムは母に渡して部屋にこもり、昔の水泳の記憶を思い返してみた。


でも水泳の記憶をたどっても思い出すのは嫌なものばかりで多田さんらしき子のことについては何も思い出せなかった。


後ろから教室に入り、自分の席に着く。


「おはよう、櫻井さん。」


席について荷物を机の中にしまっていると多田さんが近づいてきた。


「おはよう。昨日は一緒に帰ってくれてありがとう。」

「あー、それは全然いいんだけど、これからさ、ちょっと時間ある?すぐすむんだけど。。。」


多田さんが少しばつが悪そうに下を向きながらそう言った。


「大丈夫だけど、あと15分くらいで朝礼だよ?」

「大丈夫。そんなにかかんないから。階段下で話そ。」


そう言って多田さんは教室のドアに向かって歩き出した。

なんだかいつもの多田さんとは雰囲気が違うように感じたため、もしかして昨日のことかな。。。と少し嫌な予感がした。


でも多田さんに付いていかない訳にもいかず、少し遅れて私も多田さんの後ろ姿を追いかけた。




「昨日の峯たちの話で知ったかもしれないけど、私実は転校生なんだよね。」


階段下に着くなり多田さんがそう切り出してきた。


「昨日はさ、どこから越してきたか忘れたって言ったけど、全然覚えてて。てかさすがに私がどれだけ頭が悪いと言ってもそれくらいは覚えてられるしね。」


この緊張した空気を和ましたかったのか多田さんが僅かにほほ笑んだ。


「でね、櫻井さんに何を言いたいかって言うと、私、昔、櫻井さんの地元のすぐ近くに住んでたの。実は習い事一緒だったんだよ。知ってた?」


「櫻井さんはあの頃から雰囲気があって美人だったから私、高校で同じクラスになった瞬間、水泳の時のあの子だって気付いてたんだ。」


相槌を打つ暇もなく、どんどん多田さんの口調が速くなっていく。


「でも櫻井さんが気付いてなさそうだったから今まで言わなかったの。」


「だって、嫌じゃん?私が覚えてるのに相手が覚えてなかったらはずいし。」


「まぁ、いつかは私がどこに住んでたか知るかなと思って、今まで初めまして風にしてたから実は違くてってこと伝えたく 「知ってた。」



「え?」



「知ってたの。というより本当に昨日ね、知ったの。母が昔のアルバムを整理してて。多田さんが写ってた。」


「だから多田さんも知ってるんだよね。私が昔いじめられてたこと。」


「あ。。。」


「もう昔のことだし。なんだか気にさせちゃってごめんね。あ、もうそろそろ行かないと朝礼が始まっちゃう。」


「え、あ、そう、だね。」


「そうだ、多田さん先に行っててくれる?私用事思い出しちゃった。先生に朝礼は出れないって伝えてくれるととっても助かるんだけど。」


「。。。分かった。じゃあ、先に行ってるね。」



多田さんが納得のいっていないような顔をしているのには気付いている。


ただ私の本当の気持ちに気付いてほしくなくて、早くこの場から立ち去って1人になりたくて、そんな多田さんを気遣うことができなかった。





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