第31話

「よしのん。さっきの何あれ。最高だったんですけど。」

「やばいよね。あんなん絶対しそうにないのに。先生たちもあのよしのんがアドリブ見せてきたからびっくりしてたよ。」


峯さんと菱川さんがそう言いながら背後から肩を組んできた。


今は卒業式も終わり校庭で生徒たちが名残惜しそうに写真をとったり喋ったりしている。


「なんだか、今だったら言えるなって思って。」


そういうと菱川さんたちに爆笑された。


「いやいや、どちらかというと言うとしても今以外でしょ。」

「優等生のくせにその判断にいたる脳みそがもう怖いわ。」


「いいじゃん。吉乃っぽいといえばぽくて。」


そういいながら多田さんも近づいてきた。


「あれ、どこかいってたの?」


「ちょっとね。」

そういって多田さんは何故か気まずそうに笑った。


多田さん達には感謝しかない。

あのことがあってから多田さん達には前以上に仲良くしてもらい、お世話になっている。


あの後多田さんから聞いたが、多田さんには実は双子のお兄さんがいて安達さんと同じ高校に通っているらしい。そして多田さんのお兄さんは敵に回してはいけないという意味でそこそこ有名らしく、安達さんが私に今後近づかないように言ってくれたらしい。それからたまに安達さんらしき人を見ることがあって呼吸が止まりそうになったが、向こうが私を認識すると逃げるように立ち去るようになった。


峯さんは本当に気さくでムードメーカーだ。意外と周りのことも見ていて私がまだ声が出ないときはよく色々と気遣ってくれたし、先回りして手伝ってくれた。

声が出始めても私はあまりしゃべる方ではないから峯さんの気遣いは現在進行形で続いている。声もでるし大丈夫だよっていっても「声でてもよしのんは気を使って言わないから」といわれた。


菱川さんはいい意味でまっすぐだから、私の力になりたいから何があったのか教えてほしいと伝えてくれた。最初はそんなにまっすぐに昔のことを教えてほしいと言われて戸惑ってしまったが、なんだか菱川さんには話せてしまった。

そして菱川さんは私の話を聞くと泣いてくれて、それ以降はなにかと気にしてくれる。

少し菱川さんはさばさばしているところがあって、よく峯さんのことをバシバシたたいたりしているが、私の前ではあまりそういうのを見せないようにしてくれている。私は全然気にしないし、菱川さんのままでいいよっていっても「よしのんは我慢しすぎ」といわれた。




「ねえ、神原達も呼んで写真撮ろうよ。よしのん呼んできて。」

峯さんが私にそう声をかけた。


「ふふ。うん。わかった、呼んでくる。」

私は峯さんの意図がわかったから笑ってしまった。


私が気付いていると分かった峯さんもいたずらっぽく私を見てくる。


「なんでよしのん笑ってんの。てか何か2人だけで通じ合ってね。たまにあるよね、そこの2人。」

気付いてない菱川さんは私達をみて不思議がっている。


「ね。」

少し気付いているのか顔をそむけた多田さんの耳は赤く染まっている。


そんな多田さんをかわいく思いながら、私は神原君の方へと走りだした。




「神原君。あっちでみんなで写真撮らない?雅人君も。」


クラスの人と話していたすきを見つけて神原君に話かけた。


「ああ、櫻井。いいよ。どこ?」


「あっ、櫻井さん。さっきの答辞最高だったねえ。俺感動しちゃった。」


瀧芝君はそう言いながら涙を拭く真似をする。

私は壇上で見てたよ。瀧芝君が多田さんにティッシュを渡したり顔のぞき込んだりしてたのを。


「ありがとう。あっちに多田さんたちがいるから行こう。」


そう言って私は来た道を引き返した。




「あっ、こっちこっち。じゃあ、ここ押してね、よろしく。」


菱川さんが手をふっている。

もうカメラマンを見つけているなんてさすがだ。


「じゃあ、人数多いし、2列になろうか。前4人が神原、櫻井、多田、瀧芝ね。」


峯さんがテキパキ指示をだす。


「なんで3、3、じゃなくて4、2なんだよ。」


多田さんが気まずそうにしているが、それを峯さんは一言で一蹴する。


「せっかくの卒業式なんだから前列はカップルでとりなさいよ。」




「えーーーっ。多田、あんたいつのまに瀧芝と。」

菱川さんはびっくりしている。


「あれー、多田ちゃんもうみんなに言ったの?」

瀧芝君は嬉しそうにニヤニヤしている。


「ちが、え、なんで峯知ってんの。」

多田さんが赤面して峯さんをにらんでいる。


「えー、知ってるのは私だけじゃないよ。ねー、よしのん」

峯さんは体を横にくねっとしながら私の方を見てきた。


「うん。まあ、なんとなくそうなのかなって。多田さんが来た時に。」


神原君は特に興味がないといった様子でこの状況を見ていた。



「あのー、並んでもらっていいっすか?」


カメラマンをしてくれる予定の生徒さんが気まずそうに会話に入ってきた。


「あー、ごめんごめん。ほらさっきの峯の言った通りでいいから並べ。」


神原君の掛け声でみんなが並びだす。

多田さんもしぶしぶといった感じで私と瀧芝君の間に入った。


「じゃ、いきまーす。何枚かとりますね。はい、ちーず。」



その後も何枚か写真をとり、そろそろ帰れーと先生たちが言いに来て解散になった。


神原君と電車を待っている時にずっと写真のフォルダを見ていると


「よかったな。いっぱい写真取れて。さっきからずっと見てんじゃん。」

そう言って柔らかく笑いかけてくれた。


神原君はそこまでよく笑う人じゃないけど私にはよくこの笑顔をしてくれる気がする。そのことがひそかに自慢に思っていることは神原君には内緒だ。


「うん。こんなにたくさんとるなんて入学式には想像してなかった。」

「俺も櫻井と付き合えると思ってなかった。」

「。。。私も。なんだか今が幸せ過ぎて怖いくらいだもん。人生で一番幸せ。」

「その記録をずっと更新できるように頑張るから。」

「ふふっ。楽しみだね。」



それは暗にずっとそばにいると言ってくれているようなもので。

でも今考えたら、神原君は今までもずっとそばにいてくれたなと思った。



「ありがとう。」

「こちらこそ。」

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