第30話
「青木道彦。」「はいっ。」「井上智也。」「はいっ。」
季節は流れ、卒業式。
今日で高校生活が終わる。
あれから櫻井は無事退院し、すぐに学校復帰とはいかなかったが、持ち前の頭の良さで復帰後も特に勉強等に遅れをとることもなく、日常に溶け込んでいった。
櫻井が復帰した後は俺の方が大変だった。
何故なら今まで皆と少し壁を作っていた櫻井の雰囲気が柔らかくなったからである。
多田たちとつるむようになった影響も大きいだろうが、今までは高嶺の花としてみんなから遠巻きに見られているだけだったが、親しみやすさがでたのだろう。
男子からの告白が急激に増えたようだった。
でも過去のこともあるし、まだ櫻井は病み上がりだったし。とりあえず、夏祭りやクリスマスを多田たちと雅人と過ごすことで櫻井との距離を縮めようと必死だった。
そして2年の終わり期末試験最終日の放課後、2人で過去に向き合い、あの時の答え合わせをした。
あの時には気付かなかったことをたくさん知った。
知ったことによってあの時こうしていればという後悔が込み上げてきたが、櫻井が「そっか。昔から神原君に嫌われてる訳じゃなかったんだ。」と頬を赤らめていたため、その顔を近くで見れる今を大切にしようと思った。
そしてもう一度櫻井に告白をし、無事、櫻井と付き合うことになった。
去年は皆で過ごした夏祭りやクリスマスを2人で過ごすことでより櫻井が彼女になったということを実感した。
「櫻井吉乃。」「はいっ。」
そう、そして櫻井の耳と声は戻った。
あの時安達に会ったことで心に大きな負荷がかかってしまったため、一時的にそうなっていたそうだ。
耳と声が戻った時に櫻井は少し寂しそうに「ずっとあのままでもよかったのに。」と言っていた。
でもすぐに「あ、耳は戻って良かったかも。神原君の声聞かないとだしね。」といたずらっ子のように笑った。
櫻井はよく笑うようになった。
もちろん前までも笑っていたが、笑っていたというよりほほ笑んでいたというか微笑という感じだった。
今では歯をだして笑ったり、さっきのようにいたずらっ子のような顔をすることもある。
ただそんな笑顔見せるのは俺や多田たちにだけのようで多田たちにはそれがとても嬉しいようだ。
色々あった高校生活。まだ人生の折り返しにも来ていない。これからもっとたくさんいろんなことがあるだろう。
大人になったら、「今の大変さを考えたらあの頃なんて」と思うのかもしれない。
いや、そんなあとだしの大人にはならず「今も大変だけどあの頃も大変だった」と思えるような大人になろう。
俺の彼女が壇上に立って答辞を読んでいる。
多田は目を赤くし、峯は号泣、菱川は鼻をすすっている。
雅人は隣に座っている多田にそっとポケットティッシュを渡していた。
俺が櫻井を見ていると、ちょうど答辞が書かれた紙から顔をあげた櫻井を目がった。
一瞬だけ櫻井の声がとまる。
先ほどまで真面目な顔で読んでいた櫻井がふわっと笑顔になる。
「心から友と呼べる人たちに出会えたことに感謝しかありません。」
そう言って今までの櫻井なら考えられないことをした。
「神原君、皆、本当にありがとう。」
そして壇上から俺達に手をふった。
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