第2話

黄色いブロックの内側にお下がりください。


駅のアナウンスが寝起きの頭に響いてくる。

俺は少し顔をしかめた。


今日は起きるのがギリギリになってしまったからまだ起きてから30分も経ってないし、朝ごはんも食べられなかった。


眠たくて眠たくて携帯をいじる気さえ、おきない。


ぼーっと意味もなく周りを見ていると俺の左斜め前に見たことのある人物が立っていた。


背中の真ん中くらいまで伸びているまっすぐな髪の毛。

肩幅が狭く、すらっと伸びた脚が彼女の儚さを強調する。

黒い制服のスカートが肌の白さを際立たせる。


そんな彼女がふらーっと線路に近づいていく。

先ほどのアナウンスでもうすぐ電車が来るとは分かっているが、線路に向かって動き出すにはまだ早い。


「おはよう。櫻井。」

俺は思わず彼女、櫻井吉乃(さくらい よしの)に話しかけた。


すると櫻井はゆっくりとこちらを振り返り、少し悲しそうな顔をした。



「おはよう。神原(かんばら)君。なんだか眠そうだね。」

一瞬悲しそうな顔をしているように見えたが、俺の勘違いだったようだ。


櫻井は俺が眠たそうにしていることに気付き、柔らかく笑った。


「今日は寝坊しちゃって。あ、電車来た。乗ろう。」

俺たちは到着した電車に乗り込んだ。


この地域は田舎のため、朝の通学通勤で電車が混むということもない。

そのため俺と櫻井は空いていたボックス席に腰かけた。


「今日って1限目英語だったよな。やば、単語テストの勉強してないや。」

「そんなこと言って、神原君なんだかんだ毎回いい点数とってるじゃない。今日の寝坊も昨日テスト勉強を夜遅くまでしてたからなんじゃないの。」

そう言って櫻井は意地悪く笑った。


「いやいや、今日の寝坊はテスト関係ないよ。一応この時間を使って悪あがきしようかな。単語帳見ててもいい?」

俺は鞄から単語帳を出した。


「うん。実は私も勉強できていないの。頑張らなきゃ。」


櫻井の勉強‘できていない‘は最終確認が‘できていない‘というレベルなんだろうなと思いながら、「おう、頑張ろう。」と言い、2人で黙々と単語帳を眺めた。

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