第27話
グイッと誰かに身体ごと引っ張り上げられた。
「。。。ごっほ。ごほ。」
少し水を飲んでしまっていたらしい。呼吸も苦しい。
誰に助けられたのか、海水のせいで目が上手く開かず、最初は分からなかったが、視野がしっかりしてくると神原君だということがわかった。
なんで神原君がここにいるんだろう。
死ねなかった脱力感といるはずのない人がいることへの困惑で私は神原君に引っ張られるがまま脚が付くところまで連れていかれた。
こちらを振り向いた神原君の目は険しい。
「」
「」
何かを話しているが、口が動くだけで音として耳に入らない。
ここでやっと私は今自分の耳が聞こえていないのだということに気付いた。
さらに神原君が突然涙を流し始めたため、声を掛けようとしたが、声が出なかった。
ああ、耳は聞こえず、声も出なくなったのか。
何故だろう、本来ならきっと悲観することだろうが、今の私にはとても心地よかった。
生まれ変わったような別の自分になったような不思議と肩の重荷がなくなったような感じがした。
その気持ちのまま神原君を見ると、神原君は泣き笑いのような顔で私を見て
そして私を抱きしめた。
一瞬、時が止まった。
神原君が私を抱きしめている。
神原君の腕の中に私がいる。
きっと抱きしめながら何か話しかけてくれているのだろう。
身体に伝わる僅かな振動で声を発しているのが伝わる。
そして鼻をすすっているのだろうこともわかった。
声がでないかわりに私は”大丈夫”という気持ちを込めて神原君の背中をポンポンッと叩いた。
すると神原君はバッと私を引きはがし、少し私の顔を見てから私の腕を引いて浜の方へ歩き出した。
黙々と歩いている神原君を後ろから見つめながら私は頬を緩めてしまった。
彼の耳は真っ赤に染まっていた。
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