第28話

櫻井に背中を優しく叩かれたことで今の状況を把握した。


恥ずかしさで急いで腕の中にいる櫻井と距離をとり、でもまたいなくならないように櫻井の腕をとって浜の方へと歩みを進めた。


浜の方へ目をやると峯達が連絡してくれたのだろう、多田と雅人も心配そうにこちらを見ていた。


「櫻井さんっ。大丈夫?苦しくない?どこか痛いところは?」


待ちきれないといったように多田が海の中に入ってこちらに近づいてきた。


櫻井は先ほどから笑みを浮かべているだけで一言も発しない。


「安達さんのことは私がなんとかしたから安心して。もう話しかけないって約束させてたから。」


あの安達が簡単にいうことをきくとは思えないが、多田が言っているからもう大丈夫なのだろう。


「。。。ねえ、なんで櫻井さん話してくれないんだろう。」

「多分だけど俺たちの声、聞こえてないんだと思う。さっき俺が喋ってた時も最初キョトン顔してたし。」

「そんな。。。」



「櫻井さん大丈夫?一応救急車呼んどいた。もうすぐ着くと思う。菱川が外で救急車見といてくれてる。」


俺達が浜に到着すると峯がそう声をかけてくれた。


「ありがとう。助かる。」


「櫻井さん、体調どう?これ近くのコンビニで買ってきたから使って。」


そう言って雅人は櫻井にタオルを渡した。

それを笑顔で受け取る櫻井。


「雅人、俺のは?」

「和のはいらないと思って。俺のポケットマネーだし。」


まあ、本当に俺は必要ないし、いいんだけどさ。


俺はその場にしゃがみこんだ。


「え、そんなショックだった。ごめん。」

「ちげーよ。」


近くにあった木の枝を持って地面に文字を書く。


”さくらい、しんどくないか?いたいところは?”


隣に櫻井もしゃがみこんできた。


”どこも痛くないよ。だいじょうぶ。ありがとう。”


そう言って俺の方を向いてほほ笑む。

俺が地面に書いているからか、櫻井も話さずに地面に文字を書いた。


「なんでこの2人はこの距離で文通してんの?」

雅人が不思議そうに俺達を指さしながら多田に聞いている。

「櫻井さん、耳聞こえてないんだって。」

多田は地面の文字を見ながら答えた。


”耳、きこえてないんだろ。だからおれは文字かいてるけど、さくらいははなしてもいいぞ。”


”じつはね、声もでないの。”


俺は櫻井の顔を見た。

櫻井は困ったように笑った。


「え。」

峯が泣きそうな顔になっている。


多田は下を向いているので表情が確認できない。


「きたよっ。櫻井さん大丈夫?」


そのタイミングで菱川と救急隊員の人がやってきた。


「大丈夫ですか。歩けますか。担架もありますが。」


「あ、すいません。歩けると思います。この子、今、耳が聞こえてない状態で。声も出せなくなってて。なんで俺が一緒に付いていきます。」


そう言って櫻井の腕をつかむ。





櫻井と一緒に救急車に乗って、俺は地元の中でも大きな病院に運ばれていった。

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