第22話

先生が教室に入ってくる直前に、多田が教室に入ってきた。


なんだか様子がおかしい気がするが、そこまで気にしなかった。


「おはよう。はい、席付けー。今チャイムなったぞー。」


先生の声が教室の雰囲気を変える。


「あれ、櫻井はどうした。荷物は引っかかってるけどな。知ってる人いるか?」

「あっ、あの、少し頼まれごとをしていて朝礼は出れないみたいです。」


「そうなのか。多田、教えてくれてありがとう。じゃあ、とりあえず櫻井は来ているということで出席とるぞー。青木。」「はい。」


さすが櫻井。朝から頼まれごとをこなしているなんて。

この時の俺は悠長にそんなことを思っていた。



「はい、じゃあ今日はここまで。次までにこのページの大問をといてきてください。」


あっという間に朝礼、1限と終わったが、櫻井は結局帰ってこなかった。


「なあなあ、和。櫻井さんどうしたのかな。美人だから神隠しにあったのかな。」

「なわけないだろ、バカ。櫻井のことだから手伝わなくていいことまでしてんだろ。」

「あー、ありえそう。絵にかいたような良い人だもんな。てか、飲み物買いに行きたいんだけど行かね?」

「あー、俺も買いたい。」


そう言って俺達は教室を後にした。


この時に教室に残っていればと後悔してももう遅い。


飲み物を買って教室に戻ったら多田が突撃してきた。


「神原、神原。どうしよう。櫻井さんの荷物がない。先生に聞いたら体調不良で帰ったって。」


「体調不良なら帰った方がいいだろ。そんなに焦ってどうした。」


「神原って、櫻井さんと小学校から一緒だよね。あのね、今日、櫻井さんに小学校同じ水泳スクールに通ってたのって言っちゃったの。」


「なんでそれがだめなんだ?てか多田ちゃんあっちの方に住んでたんだね。」


雅人が口を挟んできたが、それをすごい形相で多田が

「黙ってて。」

と一括した。


「いやでもほんとになんでそんな焦ってんの。」


「なんで分からないの。小学校の頃だよ。小学校5年とか6年とか。そのスクールに安達れいちゃんって子とかもいたの。」


そこまで聞いてやっと理解した。

多田が泣きそうな顔をしている。

雅人はきっと聞きたいことがあるだろうに、雰囲気を察して黙っている。


「どうしよう。その話してから明らかに様子がおかしくなっちゃって。私、あの頃のことを謝りたかっただけなのに、謝ってちゃんと友達になりたかっただけなのに。」


泣きそうになっている多田を慰める余裕もなく、俺は

「もう帰ったんだったよな。俺も帰るわ。もしかしたら追いつけるかも。」

と、今帰ってきた教室から出ようとしていた。


「待って私も行く。」

「え、おいてかないで、俺も行く。」


この話を多田の後ろでじっと聞いていた峯と菱川も


「私たちも行く。櫻井さんのこと心配だし。」

「ね、なんか儚そうな感じあるしね。」

といった。


もうそろそろ2限を告げるチャイムがなりそうだが、そんなことは気にせず俺たちは荷物も持たず走り出した。

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