第11話

放課後になった。


私は特に残る理由もないため、教科書を鞄に詰めて帰ろうとしていた。


教室では私と同じように帰る準備をしている人や、友達とおしゃべりしたりないのか椅子に座って雑談している人など様々である。


「櫻井さん、もう帰るの?私達この後ミスド行くんだけど一緒に行く?」

多田さん達が鞄を持って私の隣に立っていた。


「あ、ごめんなさい。今日は用事があって。また今度誘ってくれる?」

「そっかあ。残念。また行こうね。」


多田さんは比較的話しかけてくれる数少ないクラスメイトだ。

今日は母に買い物を頼まれているため行けないが、せっかく誘ってくれたのに申し訳ない。




「ミスドって駅の近くの?一緒には食べれないけど、方向が同じなら途中まで一緒に行ってもいい?」


自分的には少し勇気を出して言ってみたため、多田さん達の顔が見れなかった。


「えっ、そうだよ。駅のミスド。やったー、じゃあ一緒に帰ろう。」


嬉しそうな声がしたため多田さんの顔を恐る恐るみると、思わずこちらまで笑顔になってしまった。

それくらい満面の笑みを浮かべている。



「初めてじゃない?櫻井さんと帰るの。」

「ねー、レアだレア。」


多田さんとよく一緒にいる、菱川さんと峯さんも楽しそうだ。


「ありがとう。準備できたからいつでも行けるよ。」


「よし。じゃあ帰りましょう。」


峯さんの言葉を合図に私達は教室を後にした。





「櫻井さんって休日はなにしてるの?」

「確かに、てかプライベートが謎すぎる。」


靴箱で外履きに履き替えていると、そんなことを聞かれた。


「うーん、普通に本読んだり、親とご飯作ったりしてるよ。」


「うわー、なんか休日も上品。」

「本なんて教科書以外読まないんだけど。」

「読むっていっても授業中に机の上にだしてるだけでしょ。」


自分としては普通のことを言ったつもりが多田さん達はなぜか盛り上がっていた。


「じゃあさじゃあさ、もしかして編み物とかできる?」

菱川さんが興味津々といった顔でこちらを見てくる。


「編み方を見ながらなら。昔、母がはまってた時期があって、私もやらされたの。」


「櫻井母すげーっ。上品な娘には上品な母なんだね。」

「上品な母だから上品な娘なんでしょ。」


多田さん達が楽しそうにしているため、こっちも気分が明るくなった。


「多田さん達は休日は何してるの?」


「私はだいたいイオンにいるかな。菱川達とスタバでだべってたりすることが多いよね。」

「ねー、イオン以外行く場所もないしね。」


「そっか。休日も一緒にいるなんてすごく仲がいいんだね。」

休日に人が集まる場所に行くことが考えられない私にとっては異世界の話だった。


「私と峯は幼稚園から一緒だからね。腐れ縁だよ。」

声色はめんどくさそうであるが、そう言う菱川さんの顔は柔らかい。


「多田さんはいつからなの?」

「あー、私は小学生から。実は転校生なんだよね。小6の途中から菱川達と一緒なの。」


「てか、どこから転校してきたんだっけ。昔、聞いたけど興味なくて忘れたわ。峯、覚えてる?」

「いや、私も忘れた。」


「おい。もっと私に興味持て。といいつつ、小学校とか昔すぎて私も忘れた。」

多田さんは真顔で頭に手をあて’テヘッ’というポーズをとっていた。


「なにおしゃめな感じでごまかそうとしてんだよ。」

「昔とはいえ、前住んでたところ忘れるとか馬鹿じゃん。」


そして峯さん達にさんざんな言われようだった。




その後もたわいもない会話をし、でもいつもの帰路よりも賑やかで楽しい時間を過ごした。


駅に着いたため、3人とは別れたが、別れる際も「今度は行こうね」と言ってくれた。


私は3人に小学生の頃から出会っていたかったと心の底から思った。



しかし私は先ほどの多田さんの顔が気にかかっていた。

転校前の住んでいた場所を聞かれた時に忘れたと答えていたが、あの後、一瞬だけ遠くを見つめるようにぼーっとした表情をしていた。


その後、何故か私の方をちらっと見たような気がしたが、それは気のせいだったかもしれない。

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