第12話

今日も特に変わり映えのしない1日が終わった。

地元の駅の改札を抜けながらふーっとため息をついた。


ただ何もない日々が過ぎていくことが幸せなんだと、この歳で感じている俺は大人からしてみるとマセガキに見えるのかもしれない。


大人たちには学校や俺が過ごしている世界は小さな小さなものに感じるかもしれないが、実際にその世界を生きている俺にとってはそこが全てで、どうやってこの世界を平和に生きていくか毎日必死だ。


大人たちは学校なんて小さな世界なんだからというかもしれない。


「その時代を過ごしてきた今だから言えるが」なんて知ったかで話してくるやつなんかもいるかもしれない。


そんな大人をみてると毎回俺は”あとだしじゃん”と思う。


そりゃ大人になったら世界が広がるから、子供の頃の世界は狭かったと実感できるだろうよ。

いろんな経験もしただろうから昔の記憶も薄れて、記憶の棘も何本か抜け落ちているかもしれない。


つまり何が言いたいかというと、大人になったら比較対象ができるから子供の世界の小ささを理解した気持ちになるだけで。

大人になったら昔の大変だったころの記憶が薄れるのだろう。


子供が何を言っても大人は”はいはい”と聞き流すのと同じで、たまに俺は大人が何を言っても”はいはい”と聞き流してしまう。




何となく元気が出ず、トボトボと帰路についていると後ろから肩をたたかれた。


「ひっさしぶりー、和彦。何か元気なくない。どしたん。」

「俺達が急に後ろから凸したから驚いてんじゃね。」


後ろを振り返ると懐かしい顔が並んでいた。


「まっつんにそうすけじゃん。びっくりしたわ。何、学校帰り?」


「ほらやっぱりびっくりしてんじゃん。そりゃ急に声もかけず、肩たたかれたら驚くよな。」

「ごめんごめん。そんなにびっくりすると思わなくて。」

そう言いながら、まっつんが手でごめんごめんとジェスチャーしてきた。


「ところで和彦、丁度良かった。俺ら今週まっつんとこでゲームしようってなってて、和彦も来ない?」

「お前高校行ってから全然こっちのやつらと遊ばないじゃん。来てもちょっと顔だすだけですぐ帰るし。」


まっつんが肩を組みながら俺にからんできた。


「あー、忙しかったんだよ。行く行く。今週のいつ?ちなみに誰来んの?」


「よっしゃ。皆に和彦が釣れたって言わねーと。遊ぶのは今週の土曜日。で、結局誰来るんだっけ?」

そう言いながらまっつんがそうすけに視線を投げた。


「お前の家で遊ぶのに知らねーのかよ。俺たち以外は今のところ、竹田と安達と久保ともしかしたら皆上もかな。」


安達という名前を聞いてわかりやすく顔をゆがめてしまった。



「あー。。。そうだったな。お前安達苦手だったな。わりぃ。」

そうすけが気まずそうに俺を見た後、まっつんと視線を交わした。


「安達もさ、俺達には特に悪い子じゃないしさ。もしかしたら何か変わってるかもしんないし。来ねぇ?」


2人とも俺に気を使ってくれているのがすごい伝わるし、ここは”昔のことだし”と言った方いいのは分かるが、


「ほんとごめん。やっぱ俺行けないわ。」



そういうしかなかった。


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