VRMMOと異世界転生の関係
私事ではありますが、VRMMO物の拙作が完結しました。(正確には明日完結します)
なので今回はVRMMOというジャンルについて自分が思っている事を書こうかなと思います。
VRMMO物というのは、『ソードアートオンライン』に代表される、仮想のゲーム世界の中に主人公が入っていって冒険するというジャンルです。
このジャンル、実は昔から人気があり、MMOどころかVRという単語すらない頃から既にジャンルとしては存在しています。
1982年にディズニー映画の『トロン』が公開されましたが、これはゲームセンターの筺体からゲームの中に行けて、ゲームの中で敵と戦う内容でした。
この映画はまさに今のVRMMOそのものです。
ファミコンが発売されたのは1983年なので、ファミコンの発売前から既に世の中にはVRMMOは存在していたと言っても良いでしょう。
しかしこの頃、ゲームの世界に入っていくという作品はそれほど多くはありません。
代わりにめちゃくちゃ人気があったのは、『サイバーパンク』でした。
サイバーパンクといえば有名なのは1995年公開のアニメ映画『攻殻機動隊』です。
が、この攻殻機動隊が日本で公開された1995年にはハリウッド映画でも『JM』『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』という、仮想世界に行ける映画が公開されています。
そして1999年アメリカで『マトリックス』が公開され、日本では2001年に攻殻機動隊を作った押井監督の映画『アヴァロン』が公開されました。
この2作によって〝ゲームみたいな仮想世界に行くサイバーパンク物〟が一気にメジャーな人気になりました。
それが〝VRMMO〟という名前で呼ばれるようになったのは、言うまでもなく2012年にアニメが放映された『ソードアートオンライン』の大ヒットからです。
※この辺りの細かい事柄、ラジオ『アフター6ジャンクション』のアーカイブ『国産RPGクロニクル・ソードアートオンライン特集』を聞くとかなり詳しく知る事ができます。
……さて、前置きが長くなってしまいましたが、何を書きたいのかというと、VRMMO物は『ソードアートオンライン』で人気が出たのですが、VRMMO物には、どうしようもない弱点があります。
それは、ゲームの中の世界なので、何が起こっても
例えば主人公がピンチになってもさっさとログアウトしてしまえば良いだけの事……なのです。
ソードアートオンラインはそれを逆手に取って、ゲームからログアウトできなくされた上に、ゲーム内で死んだら現実も死ぬと言う〝デスゲーム〟にした事によって、うまくこの弱点を回避していました。
しかし、先駆者であるソードアートオンラインで既にやってしまっている為、他の作品で同じことをやっても、はいはいソードアートオンラインのアレですねといわれて一笑されるだけです。
VRMMO物というジャンルを書く時には、この問題をどうクリアするのかがこのジャンルの課題なのです。
それを解決する方法が二つあります。
一つは、弱点を目立たない様にする方法。
例えば『チートスキル』とか『ヒロインにモテる』『スローライフ』など、プラスの面だけをを強調させて描き、そちらだけにスポットを当てるのです。
もう一つはPVPにする方法。
対戦相手がゲーム内のモンスターではなく、他のプレイヤーとの対戦にするのです。
モンスター相手なら負けても所詮ゲームと言えたのが、対戦なのでログアウトしたら負けになってしまいます。
PVPにする事で、スポーツ物としても描く事ができます。
ですが、もっと根本的に解決する良い方法があるのです。
それが、『異世界転生』です。
主人公が冒頭で死んでゲームっぽい異世界に転生した事にしてしまえば、もうピンチになってもゲームの中の世界からログアウトする事ができません。
しかも主人公にはこの世界が今の現実そのものなので、所詮ゲームなんでしょ……とは言えなくなるのです。
たとえスライム一匹でも、侮れない相手になるのです。
わざわざソードアートオンラインをパクってデスゲームにしなくても、同じ事ができてしまうのです。
さらに嬉しい事に、今は『なろうテンプレ』と呼ばれる作劇法があり、異世界転生物はテンプレ化しているのです。
おかげで能力のない我々のような素人作家でも、最初の方の展開は何も考えないで書いてもそれなりに書けてしまうのです。
ありがとうテンプレ。
さらに、その世界で『チートスキル』とか『ヒロインにモテる』『スローライフ』など、プラスの面だけをより強調させて描いたって良いのです。
(というか昨今は異世界転生は数があまりに多すぎるので、何かしらのプラス要素がなければもはや読者に読んでいただく事ができません。)
もう一つ、異世界転生物がVRMMO物より良い点があります。
それは、VRMMO物と違って〝現実世界〟に戻る事がないので、現実世界を描かなくても良いという事です。
これによって、作者はゲーム風異世界の世界観を描く事のみに集中する事ができるし、読者は今読んでいるのが現実の方なのかゲームの方なのか、そしてこのキャラは現実だとどのキャラでゲームだとどのキャラなんだ……という事に煩わされずに済むのです。
ついでに書いておくと、VRデバイスの説明をしなくても良いのも利点です。
作者側は一生懸命考えたデバイスのシステム面やメカニズム的な説明や、五感をどの程度まで再現しているかなど、デバイスについて語りたいのです。しかも、この部分が一番『SF』らしいので、SFジャンルに身を置く以上一定の説明はしておかねばと言う気になります。
……が、読者にとっては割とそこはどうでも良かったりするのです。
纏めると、『異世界転生物』こそが、『VRMMO物』の弱点を全て解決しているのです。
最近ではそこからさらに進んで異世界転生した主人公が異世界を攻略して現実に戻ってきたら現実にダンジョンが出現してゲームっぽくなったパターンも流行りのようです。
こうなってくるともはや、VRMMO物の弱点を補った上で更に次の展開に発展しているので、VRMMOが時代遅れに思えてしてしまいます。
おそらく、VRMMO物よりゲーム風異世界転生物や現実世界にダンジョン物がたくさん描かれているのは、そう言った理由があるからでしょう。
カクヨムコン7ではSFジャンル自体がなく、VRMMO物を書いていた作者たちは『現代ファンタジー』『キャラクター文芸』『ラブコメ』などにそれぞれバラけていたのです。
しかし、VRMMO物には今だに読者の需要はあるのではないかと思います。
ソードアートオンライン自体が今だに人気がある事でも明らかです。
今、敢えてVRMMO書くメリットはあるでしょうか。
個人的にはあると思います。
一つは、現実世界とゲーム世界の両方を描けると言う事。
VRMMO物だけは、異世界転生とは違って、現実世界で学園物やアイドル物、現実にダンジョンが発生などの世界を描きつつ、同時にゲーム内世界も並行して描く事が出来るのです。
異世界転移物は戻ってこれるので、異世界と現実世界を同時に描く事ができますが、現実世界と異世界を同時に描くのは異世界だけ描くよりも作者側が大変です。
しかし、VRMMOであれば多少の事はゲームだからで誤魔化せるのです。
(さっきゲームだからってのはマイナスだと書きましたが、物は言いようなのです。能力の高い作者にとってはマイナスでも、能力のない我々素人作家にとっては、多少荒い世界観でも、多少強引な設定でも、ゲームだからで誤魔化せるのはプラスにできるのです)
もう一つは、ゲーム世界なので最近流行りのストレスフリーにはしやすいという事。
異世界転生はもう戻れないし、異世界転移は戻れるけど異世界もまた別の現実なので、剣で殴ったら怪我をします。下手したら死にます。
しかし、VRMMOの世界ではどんなに暴れても死ぬことはないので、楽しくアクションの描写だけしていても良いのです。
かつての商業作品では、そんなのは現実味がないからダメだとなっていましたが、昨今のWeb小説では、あまりストレスをかけない方が良いとされがちです。
それに、先人たちの努力の積み重ねにより、今はゲーム世界にも描くモチーフは大量にあります。ストレス展開なしでもたくさんのチートスキルや魅力的なキャラクターとの恋愛や生産職など……出来る事は無数にあります。
正直、読者の需要の割には作品数は少ないのでは……と思うのです。
……さあ、あなたもおひとつ、書いてみてはいかがでしょう。
VRMMO、案外楽しいかもしれませんよ。
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