君たちはどう小説を書くのか
Web小説を書く人には、もともと小説を書くのが好き、或いは読むのが好きでそもそも書くことを楽しみたい人と、小説を書いて本を出す事を目的としている人がいると思います。
どちらか片方と言うより、両方ともある人ももちろんいます。
本を出す事が目的の人はそもそも多くの人に読まれる物を書かなくてはいけないので、結果的にマスに向けた内容に寄せて書く事になるのですが、もともと小説が好きと言う思いで始めた方は、読まれなくても良いから自分の好きなものを書きたい……と思う人も多いと思います。
しかし、WEB小説を書いていると、多く読まれる方と誰にも読まれていない自分の小説との差に焦りを感じ始めます。
残念ながら、どんなに目を背けても全く焦らない人はいないでしょう。
そして、より多くの人に読まれるにはどうしたら良いかを考え始めます。
その結果として、ランキング上位の作品を参考にタイトルを長文にしてみたり、テンプレ展開にしてみたり、一人称にしてみたり、異世界やラブコメを書いたりする様になるのです。
もともと異世界ものやテンプレも好きだったり、或いはそれらも全然OKな場合には、上手く適応できてしまいますが、本来は硬派な小説が好きで、仕方なく日和って寄せてみた人の場合、わざわざ好きでもない長文タイトルや異世界ファンタジーにしてみたのに結果的にあまり読まれないままだった事に悲観的になってしまいます。
偶然にも寄せてみたら多くの人に読まれる事になった場合も、本来の自分の書きたい物とは違う物を無理して書いてる事にストレスを感じ始め、読者獲得のために毎日更新しなければ行けないプレッシャーに徐々に精神が蝕まれて行き、やがてどこかでプツっと切れてしまいます。
そうしてWEB小説から姿を消すのです。
……果たしてそれは悪い事でしょうか?
WEB小説は宝くじと一緒です。
ランキング上位の人の下には、ランキングに入れない大量の人がいるのです。
ですが、運良くランキング上位に入れは、お金が入って来ます。
お金が動くと言う事は、これはビジネスなのです。
上位陣になればなるほど、本人に入って来るお金ももちろんですが、動くお金の額が桁が変わって来るのです。
運良く書籍化すれば、出版に携わる何人もの人たちの仕事と直結します。
出版社の広報さんが精一杯宣伝したり、印刷所の人が今刷ってる話は面白いなと、あなたの書いた物を仕事として扱うのです。
それがWEB小説なのです。
もちろん、誰にも読まれない作品だって、広告無しで掲載する事が出来るのです。でもそれにもサーバー代が掛かります。
一昔前だったら多くの方が、広告付きの無料レンタルサーバーでホームページを作って公開していました。
ですがそれらの多くは誰にも読まれる事なく、ひっそりと存在していました。
しかし、それではレンタルサーバーの広告は賄えません。
結果として、レンタルサーバーの多くはそのサービスを終了して行きました。
WEB小説サイトも同じです。
小規模の企業が運営するサイトは常にサ終の危機と隣り合わせです。
結果、大手の投稿サイトに人が集まるようになりました。
大手のサイトはその資金力を武器に、自サイトの上位作品をアニメ化させたりコミカライズしたりして、更に集客しようとしています。
ですが、その大手サイトですら、現在アニメで人気になっているのは、初期のなろう系の物ばかりです。
最近の作品でアニメ化したものは大抵1クールで終わっています。
人気作品の売れてる要素をパクって適当に鍋につっこんだだけの物が乱造されている中で、でも売れ続けてるのは、その最初期の物ばかり。
そう、大手サイトでも、明日はわからないのです。
大手サイトも簡単には柳の下に2匹目のじょうを見つけられ無いのです。
今はWEB小説の乱世です。
何が正しいのか、分かるのはきっと何十年か経った後なのです。
さて、それでも人がいて金が動く以上は、何かが起きる可能性はあります。
ゴールドラッシュの中、人は砂金を求めて集まって来ますが、殆どの人は砂金を見つけられません。
しかし稀に見つけてしまう人もいます。
皆と同じ場所を探してみるのか、皆の掘っていない場所を一人掘ってみるのか、どちらが正解かはわからないのです。
しかし、それでも尚、流行りに乗っていない物を書く事に焦りを覚えてしまうのはなぜなのか。
それは、人はなぜX(Twitter)をするのか……と言う事に似ています。
TwitterじゃなくてXと書き切ってしまおうと思ったのですが、スマホのアプリはすっかりXになってしまっていますが、Macのアイコンはまだ青い鳥さんのままだったので、Twitterまだいたここに!と思って安心して堂々とTwitterと書く事にしました。
Twitterは誰でも呟けます。
別にバズるのが目的ではなく、ただ呟きたい事を呟くのです。
ですが、ごく稀にバズったりする事があります。
バズると宣伝ができます。
学校や仕事終わりのアフター5、友達にちょっと自慢できます。
バズっている人のをみると、自分もバズってみたいと思うようになります。
その結果、バカな事をして世間を騒がせる
バズったTwitterは一度に何万人もの人が見ます。
もっと多いと何十万人もの人が見ます。
でも、Twitterのバズりは、それで終わりです。
例えバズってもそれで終わり。
次の呟きはもうバズれない。
お金にもなりません。
あくまで、承認欲求が満たされるだけです。
WEB小説はどうでしょうか。
ランキング上位に入れば、一度の投稿を何万人、何十万人もの人が見ます。
それも、ただ見るのではなく、積極的に読みに来ます。
しかも、一度で終わりではありません。
次の話を書けば、それも読みに来てくれます。
しかも、過去に書いた文から順に読んでくれます。
たくさん書けば、その分多く読んでくれるのです。
しかも、次をも期待してくれます。
Twitterではどんなにバズっても、その人の次の呟きなんて誰も気にしてくれません。
それでも、承認欲求を満たすために多くの人がTwitterの虜になっています。
WEB小説は、それ以上に強い承認欲求を満たしてくれる装置なのです。
(この理屈はパチンコとも通じるのですが、そっちは小説として書いたので今は横に置いておきます)
仮にTwitterを拡散型SNSと呼称します。
このシステムをもう少しお手軽に得られる方がいい方法として、クローズ型SNSと言うものもあります。
mixiやらFBと言ったSNSです。
そちらは限られた、しかし中が良い数人の仲間に向けてつぶやき、数は少ないけど彼らに確実にイイネしてもらえる事で承認欲求を満たす事が出来ます。
WEB小説は、この格差型SNSの絶対数と、クローズ型SNSの確実性の両方を兼ね備えた、強力な承認欲求システムなのです。
しかし、世の中にはSNS疲れと言う言葉があります。
拡散型SNSで良くあるのは、誰かわからないから気軽に悪口を書けてしまい、それを読んで精神的に参ってしまいます。
クローズ型SNSでは、最初は投稿すればイイネが貰えて承認欲求が満たされる事が楽しかったのが、次第にそれが当たり前になって、投稿すると言う行為がただの作業になってしまい、苦痛に感じるようになるのです。
WEB小説にはそのどちらも当てはまります。
WEB小説ではSNS疲れなんて言葉は使われてませんが、確実に同じ事が起きているのです。
その結果、冒頭に書いた様に小説を書く事に疲れて筆を置いて去って行く作者が絶えないのです。
もちろん、他の理由で去って行く人も多くいるでしょう。
しかし、WEB小説はには、以上の様な強力な承認欲求システムが働いている以上、去って行く人を無理に繋ぎ止めるのもまたよくないのかも知れません。
SNS疲れは、SNSから離れる事で解消されます。
某ジャズミュージシャンの方も、自身のラジオ番組『粋な夜電波』の中で、病んでる時は本を読むと余計に病むので、本を読むのをやめて音楽を聴いた方が良い、なんておっしゃっていました。
書きたい物が書けないで悩んでいる時は一度書くのをやめても良いのかもしれません。
そして再び内から書きたい衝動が湧いた来た時、再び書いてみると良いのかも知れません。
その時はもう、以前のようにジジの声は聞こえなくなってしまっているかも知れませんが、以前より魔法は上手く扱える様になっているかも知れません……あれなんの話だったっけ。
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