第18話 紗緒里ちゃんとのやり取り
俺は今、ベッドの上にいる。
もう夜十二時近くになっていた。
まだ紗緒里ちゃんからのルインは来ていない。
ルインでのやり取りは、あまり気乗りはしないところがある。
紗緒里ちゃんの送ってくる内容によっては、返事をどう出すか、ということで悩んでしまいそうだからだ。
返事を出さなくてもいいよ、とは言ってくれたが、短文ではあっても出さないわけにはいかないだろう。
彼女は優しいから、出さなくても怒ったりはしないだろうし、普通に対応してくれるだろうが、心の中はつらくなるに違いない。
いや、俺が彼女の立場だったら、つらくて悲しい思いになるだろう。
「好き」という言葉を送って来られるのが、対応としては一番難しい。
とにかくどういう内容で送ってくるかどうかだ。
それにしても、ジュースを飲みながら待っているが、まだ送ってこない。
もう寝ちゃったのかなあ……。
でもあれだけ送ると言っていたんだから、もう少しだけ待っていよう。
そう思っていると、
「おにいちゃん、今日はありがとう。楽しかったです」
という言葉が送られてきた。
やっと送ってきてくれた。
なんだかホッとする。
こういう内容だったら、俺もすぐに返信ができる。
俺はすぐさま、
「こちらこそありがとう」
と返信した。
すると、彼女は、
「記念すべき初めてのやり取りですね。うれしいです」
と返信してきた。
そうだ。これは、紗緒里ちゃんとの初めてのやり取りだ。
二人にとっての記念日の一つ、ということになるのだろう。
このまま俺達の関係が進んでいけば、楽しい思い出の一つになっていくのだと思う。
続いて、
「明日七時三十分頃おにいちゃんの家に行きますけど」
「それでいいでしょうか」
と送ってきた。
そういえば、彼女が来る時間を決めていなかった。
七時三十分とすると、彼女の方は七時十五分には自分の家を出なければならない。彼女にとっては負担になると思う。大丈夫だろうか。
こういうことに対する返信ならできるし、逆にしなければならないだろう。
俺は、
「紗緒里ちゃん、その時間で大丈夫?」
「つらくない?」
と返信した。
彼女はそれに対し、
「おにいちゃん優しい」
「わたしは大丈夫ですよ」
と返信してくる。
彼女の好意に応えないわけにはいかないので。
「わかった。申し訳ないけどよろしくお願いします」
と返信した。
「では明日七時三十分頃伺います」
「よろしくお願いします」
彼女の返信。
ここまでのやり取りは普通にできた。これなら明日以降も、うまくやっていけるだろうと思ったのだが……。
「おにいちゃん、好きです。大好きです」
彼女がそう送信してきた。
「好き」という言葉。
こうして文字で書かれると、言われるのとはまた違ったものがある。
心が熱くなってきた。
しかし……。
今まで、「好き」という言葉を書かれてきたら、どう対応しようかいろいろ考えていたのだが、結論が出ないまま送信をされてしまった。
俺の方も「好き」と返信するのが一番いいとは思う。そうすれば、彼女は悲しむことはないし、喜んでくれるだろう。
俺は今日一日、彼女と過ごしてみて、彼女の笑顔はとても素敵だと思った。
そして、つらそうな顔とか悲しむ顔は見たくないと思った。
俺は彼女に恋しつつあるんだと思う。
でも、それでも、俺から「好き」と書くのは抵抗がある。
「好き」と書くのは、俺が紗緒里ちゃんのことを恋の対象として好きになった時だと思う。
そうでないと、紗緒里ちゃんに対しても失礼だ。
彼女の方は、この先はともかく、今は俺のことを本気で好きになってくれているようだから……。
ではどう返事するのがいいのだろうか。
いっそのこと返事をしない方がいいのだろうか。
でもそういうわけにはいかない。彼女に申し訳ない。
俺はしばし悩んだ後、
「その気持ちはありがたいと思う」
と返信した。
ごめん。紗緒里ちゃん。今俺が書ける精一杯の返事だ。
そう思っていると、
「おにいちゃん。今はその返事だけでうれしいです」
「おにいちゃんのこと。ますます好きになります」
と彼女が返信してきた。
紗緒里ちゃん、まだその想いに応えられなくてごめん。
改めて俺はそう思う。
「それではおやすみなさい」
「おやすみなさい」
こうして俺達の初めてのルインでのやり取りは終わった。
なんだか寂しい気持ちになる。
やり取りをするまでは、結構抵抗はあった。返信もできないのではないかと思った。
そういう点では、「好き」という言葉にも、悩んだとはいえ、何とか返信できてよかったと思っている。
しかし、彼女はこれからも「好き」という言葉を送信してくるだろう。そして、ルインだけではなく、会った時は必ず「好き」という気持ちを伝えてくるだろう。
明日からは、紗緒里ちゃんと一緒に登校する。
女の子と一緒に登校すること自体は、あこがれていたシチュエーションなので、うれしいし、楽しみにしている気持ちは大きい。
しかし、そこでも彼女は、俺に自分の想いを伝えてくるのだと思う。
紗緒里ちゃんの俺への熱い想い。その想いに応えていかなければいけないんだが……。
俺はジュースを飲み終えると、寝る為の仕度を始めた。
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