第48話 デート前日
ゴールデンウイーク前日。
俺は明日、紗緒里ちゃんと出かけることになっている。
しかし、ただのお出かけではない。そう。デートをするのだ。
とは言うものの、まだまだデートという言葉を使うのは、抵抗があるのだけど……。
ここまで、ネットで情報を集めながら、俺は計画を練ってきた。
彼女の意見ももちろん取り入れて、喜んでもらえそうな計画に仕上がってきたつもりだ。
とはいうものの、実際に行ってみて、喜んでもらえなかったらどうしょう、という思いはどうしてもある。
次第に緊張が高まってくる。
放課後。部活前。
俺は今、康一郎と話をしていた。
「お前は、鈴乃さんと一緒にショッピングモールで買い物をして、レストランで食事をするんだったな」
「そう。俺は遠出をしようと思ったんだけど、ゴールデンウイーク中、部活がない日が一日しかないから、俺の疲れが遠出でたまってしまうかもしれないって鈴乃ちゃんが心配してくれた。それで、近所のショッピングモールになったというわけ」
「鈴乃ちゃん、お前のこと、幼い頃からよく気を配っているよなあ」
「うん、まあ。俺のことを想ってくれるのはいいんだけど、最近ますますやきもちがすごくなってきて……。今日もクラスの女の子と話をしていたら、後で、『もう、親し気におしゃべりなんかしちゃって。なんで浮気するのよ。いつも言っているでしょう! わたしは康一郎くんのことしか想っていないのに……』ってものすごく怒られちゃった」
「話をしていただけなんだろう? そんなに親し気に話をしていたのか?」
「いや、俺としてはそういうつもりはなかったんだ。でも結構話が盛り上がっちゃって。楽し気に話をしていたのが、彼女からすると浮気ということになったらしい。もっと普通に話をしていたら、怒ることもなかったかもな」
今日だけじゃなく、昔から、女の子とよくおしゃべりをしている康一郎。
康一郎自体は全然そうだとは思っていないだが、テニス部で活躍し、話も面白いので、女の子の間での人気は、最近どんどん高くなってきているように思う。
そういった女の子たちは、鈴乃ちゃんという恋人がいるので、話すこと以上のことはできないようだ。
しかし、今はそうでも、その中で「好き」という気持ちが強くなってくる子がいれば、告白してくるということもありうる話だ。
もしかすると、その告白してきた子に、心を奪われてしまうかもしれない。
そういうことがないとはいえないので、鈴乃ちゃんは、康一郎が他の女の子と楽し気に話をしていると、すぐやきもちをやいてしまうのではないかと思う。
俺も鈴乃ちゃんの幼馴染で、幼い頃から彼女が康一郎のことを想い続けているのはよくわかっているので、そういう気持ちになるのは充分理解できる。
「まあ彼女の愛情表現なんだろうけど。それで、夫婦ゲンカはまだ続いているのか?」
「俺が、『ごめん。これからは気をつけます。わたしは鈴乃ちゃんだけが好きなんです』と言って頭を下げたら、『それならいいのよ』って言って許してくれた」
「それはよかったな」
「まあそういうわけで、おさまったのはいいんだけど。でもいつも思うんだけど、他の女の子と楽しそうに話をするくらいいいじゃないかと思うんだけどなあ」
「お前はモテるからだよ」
「またまた。お前いつも冗談がうまいな。別にモテているわけじゃないんだし、鈴乃ちゃんとは大人になったら結婚するんだから、もっとおおらかにしてほしいんだけど」
そう言って康一郎は苦笑いする。
さりげなく「結婚」という言葉を入れている。
この二人だったら、結婚することはもう決まっていると言っていいと思う。
「まあ今度のデートでは、鈴乃ちゃんに怒られないようにすごせるといいと思っているよ」
「ラブラブなデートになるといいよな」
「そうだな。ラブラブと言うと恥ずかしいけど、そうなるように心がけるよ。ありがとう」
康一郎は、顔を赤くしながらそう言った。
「ところで、お前の方はどうなんだ。もう計画は立て終わったんだろう?」
「そうだ。明日、紗緒里ちゃんと出かけるんだ」
「いよいよだな。お出かけというよりデートだろう?」
「うーん、そうなんだけど。まだデートというのには抵抗があると言うかなんというか」
「まずはその心構えだな、デートとして行かないと。お前、彼女のことが好きなんだろう、いとことしてじゃなくて、一人の女の子として」
「そうだけど……」
「もう明日で、恋人どうしになるんだ。いつまでも中途半端じゃ良くないぞ」
「お前の言う通りだとは思うんだけど……」
「彼女だって、ここで正式なお前の恋人になりたいと思っているはずだ」
「でも俺、紗緒里ちゃんとうまくやっていけるのかなあ……。どうしてもそう思っちゃうんだよ。今は恋しているんだろうけど、そのうち嫌になっちゃうかもしれないんじゃないか、って思っちゃうんだ」
「紗緒里ちゃんはそんな子じゃないよ。お前のすべてが好きなんだと思う。お前がいつも彼女に愛情を持って接していれば、嫌われることなんてありえない。それどころかお前のことをもっと好きになると思う。もっと、もっと、自分に自信を持つんだ」
そう言うと、康一郎は微笑んだ。
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