第47話 夏森さんについて
その日の夜。
俺はベッドに横たわりながら、今日の夏森さんのことを思い出していた。
彼女は、今日、俺にその想いを伝えてきた。
もちろん、最近毎日伝えられてはいるのだが、今日はいつもより激しいものだったと思う。
その勢いに飲み込まれそうになったといっていい。
彼女の誘いを全部断った形になってしまったわけだが、それでよかったのだろうか。
彼女は幼馴染。一緒に遠出をするのは無理でも、お茶することはOKしてもよかったのでは。別に恋人どうしじゃなくても、友達どうしだったらしてもいいのでは……。
そういう気持ちがどうしても残っている。
一緒にお茶をすることすら断ってしまったので、もしかしたら今日は送信してこないかもしれない。彼女が送信をしてこなかったら、それはそれで寂しいものがある。
それにしても、なぜ彼女はそこまで俺のことが好きなんだろう。
彼女はかわいいし、一途なところがあり、俺も魅力的に思っている。
しかし、それであればこそ、他の人が好きになっても良さそうな気がする。
俺より素敵な人はいるだろうし、恋人寸前の女の子がいる男の子よりも、そういった人がいない男の子の方がいいと思うんだけど……。
ルインで「好き」と送信されてくる度に、そう思うこともある。
もちろん、俺のことを好きになってくれること自体はありがたいし、うれしい。
俺も彼女に好意を持ち始めているところはある。
しかし、恋というところに行くのは遠いと思う。
そう思っていると、彼女からルインが入ってきた。
「こんばんは」
「わたし、海春くんが好き」
今日は送信してこないかもしれない、と思っていたので、ちょっとホッとした。
俺も、
「こんばんは」
といつものように返す。
すると、
「今日はごめんね」
「急ぎすぎてごめん」
「でもわたし、海春くんのことが好き」
「もっともっと話がしたい」
「もっと海春くんと一緒にいたい。好き」
「今まで疎遠だったから、ずっと一緒にいたい」
「ごめんなさい。また続けて送っちゃった」
「お茶、これからも誘いたい」
と夏森さんが送信してくる。
彼女の想いがどんどん伝わってくる。
どう返事すべきか。
俺はちょっと悩んだが、
「夏森さんの気持ちは理解したい」
と書いて返信をした。
夏森さんの想いは受け止めることはできないけど、理解はできると思ったからだ。
すると、
「ありがとう。海春くん、優しい。それだけでもうれしい」
と彼女は返信してきた。
俺にはこういう返事しかできない。それでも「ありがとう」と言ってくれる彼女。
俺は心の中で、彼女に「ごめん」と言った。
やり取りが終わると、俺はジユースを飲み始めた。
俺は夏森さんとどうしていくべきなのだろう。
仲の良い友達として、すごしていきたいと思ってはいるのだけれど……。
彼女に告白された当初は、そうしていこうと思っていたし、今もその気持ちは変わっているわけではない。
変わらないようにしたいし、そうでありたいと思っている。
しかし、彼女の「好き」という甘い言葉。直接言われると、心がどうしても動かされるところがある。
紗緒里ちゃんの「好き」という言葉がもちろん一番好きだが、夏森さんの「好き」も心地良いものに思う。
夏森さんは仲の良い友達として接していかないといけない。
でも恋の対象にしないままでいられるのだろうか。
幼馴染でかわいくて、俺に一途な女の子。
彼女とは、恋とは違うとしても、一緒にいて楽しかった。そういう思い出はある。
その思い出を大事にし、彼女と恋人どうしになっていきたい、という気持ち。
今までは疎遠だったので、そういう気持ちはほとんどなかった。しかし、彼女に想いを伝えられてからの俺は、少しその方向に心が動いている。
仲の良い友達でいたいという気持ちは強いが、一方では彼女の気持ちにも応えたい気持ちもある。。
改めて夏森さんの気持ちを思うと、お茶をしてもいいのでは、と思ってくる。
仲の良い友達ならば、恋人どうしではないとしても、おしゃべりをするだろう。お茶をするということは、その中でおしゃべりを楽しむということでもある。
彼女との話は、結構楽しいと思っているので、恋を語るのでなければ、いいという気がする。
そう思うと、今日断らなければよかった、という気持ちになってくる。
「お茶、これからも誘いたい」
と夏森さんは送信してきた。
俺をお茶に誘いという気持ちは強い。それだけ俺ともっと一緒にいたいのだろう。
明日もまた誘ってくると思う。対応については、これからも悩みそうだ。
しかし、彼女のその俺に対する気持ちは、これからも続くのだろうか。
今だけで、そのうち冷めていってしまうのではないだろうか。
そういうことも思ったりする。
いや、あれだけ今日も、俺に想いを伝えてきた彼女だ。冷めていくということはないと思う。
俺は幼い頃、彼女に好意を持っていた。
今また、少しずつではあるが、好意は高まってきていると思う。
しかし、紗緒里ちゃんがいる以上、恋の対象と思ってはいけないんだけど……。
俺はジュースを飲み終わると、寝る為の準備に入った。
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