第46話 想いを伝え続けたい夏森さん
夏森さんの、俺のことを想う気持ち、それは理解したいと思う。
その気持ちに少し応えたい気持ちが湧いてくる。
彼女が言う通り、友達なんだから、お茶ぐらいはいいと思うのだけど……。
夏森さんの申し出を受ければ、いくらお茶だけでも、もしかしたら紗緒里ちゃんが悲しむかもしれない。
逆に、もし夏森さんの申し出を断れば、夏森さんの悲しむ顔を見なければならないだろう。
どちらも俺にとってはつらい決断になる。
どうしたらいいんだろう……。
俺は悩んだ。
しばしの間、二人とも黙り込んでいた。
やがて、
「ごめん。わたし、急ぎすぎちゃったね。今日のところはあきらめる」
と夏森さんは残念そうに言った。
「なんと言っていいかわからないけど……」
「いいのよ。一緒に出かけるのはハードルが高いと思ったんだけど、どうしてもお誘いしたかったの。これは、わたしも難しいな、とは思っていたんだけど、やっぱり断られちゃった。まあ、これは断られてもしょうがないな、と思った。でもお茶するのもハードルが高かったということなのね。わたしの方は、もうそろそろお茶ぐらいはしてもいいかな、と思っていたんだけど。結構海春くんと最近、楽しく話せている気がしたから。それだけ彼女のことを大切に想っているということなのね。今日はもうこれ以上お願いはしない。でも、それでもわたしは、これくらいじゃあきらめない。だって、幼馴染なんですもの」
彼女は一旦言葉を切る。
そして、もじもじして顔を赤くしながら、
「わたし、海春くんのことが好きなの。好きで、好きでいつも海春くんのことを想っているの。この気持ちがいつか通じて、恋人どうしになりたいと思っている」
と小さめの声で言った、
俺はここまで彼女に想われている。
しかし、この気持ちに応えることのできない自分。
つらい気持ちになるが、ここはグッと我慢するしかない。
「海春くん。改めてお願いがあるの」
なんだろうか。
もう一回、お出かけしたいと言われても、お茶したいと言われても、困惑するしかないところなんだけど……。
「わたし、今日、なんか無理なお願いをしちゃった気がするんだけど、それで嫌いにならないでほしい」
「そんなことで嫌いになるはずないじゃないか」
俺はまた同じことを言われるんじゃないかと思っていたので、ちょっとホッとした。
「いや、さっきも言ったけど、急ぎすぎちゃったと思う。わたしって、こういうところがあるから、それで嫌いになっちゃうかもしれないと思って」
「まあ強引なところはあると思うけど、嫌いじゃないから」
「そう言ってくれるとうれしい。わたし、まだ相思相愛になれないのはつらいけど、海春くんに嫌われるのが一番つらいから」
「夏森さん、俺のことをこんなにも想ってくれるんだ。嫌いになるはずがない」
「ありがとう」
少し涙声になっている夏森さん。
俺も胸が熱くなってくる。
「仲の良い友達としては、これからもよろしくお願いしたいと思っている」
「友達、なんだよね……」
残念そうな表情になる夏森さん。しかし、それは一瞬で、すぐ気を取り直し、
「ルインも教室でのおしゃべりも、今まで通りでいい? 『好き』って言葉を送信するし、毎日直接『好き』って言うけど、それでいい?」
ともじもじしながら言ってきた。
「うーん、そう送ってこられても、俺としては返事が難しいから、なんとも言えないけど。後、直接言われても、難しいんだよな。何と言っていいかわからないっていうところがあって」
「ルインの返事は最初に言った通り、もらえるとは思ってないので、それでいいよ。わたしが直接『好き』っていうのも、返事を期待しているわけじゃない」
彼女は、さらに顔を赤くしながら続ける。
「ただわたしとしては、海春くんにこの想いを伝え続けたいから、『好き』って書きまくりたいし、言いまくりたい。迷惑かもしれないと思っている。でもこの熱い気持ち、抑えることが難しいの。それが少しでも伝わってほしいと思っているの」
そう言った後、
「海春くん、これって言うのはすごく恥ずかしいことなのよ」
と言ってうつむく夏森さん。
俺もなんだか恥ずかしい気持ちになってきた。
俺はもともと彼女のことがは幼馴染としては好きだ。少しずつ、まだ恋ではないが、好きだという気持ちは強くなってきている。
そういう気持ちなのに、「好き」だと送信してきたり、言ってくるのを拒絶するのは至難の技だ。
俺は、
「まあ、これまで通り、返事をしないでいいのなら……」
と言うしかなかった。
「ではこれからも、想いを伝えさせてもらうね。ありがとう」
と言って彼女は微笑んだ。
夏森さんは、もともとはおとなしい方だった。それが、恋ということになると強引なところが多くなっている。それだけ俺のことを想ってくれているのだろう。その気持ちは理解していきたい。
笑顔は素敵だ。かわいい。
「好き」と送信されたり、直接言われたりするのは、これからも困惑するだろう。
でも、それ以外のところでの、友達としてのやり取りならば、してもいいのではないかと思う。
とにかく紗緒里ちゃんが第一というところをきちんと守って対応していこう。
「これからもよろしく」
「うん」
そうこうしているうちに、昼休みも終わりに近づいてきた。
「じゃあ、そろそろ教室に戻った方がいいわね」
「そうだな」
「海春くん、いや、今だけは名前で呼ばせて。夢海ちゃん、好き」
夏森さんの甘い声。
俺はこの声の魅力に染まり始めている気がする。
俺達は、教室に戻っていった。
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