第28話 夏森さんの想い
夏森さんは俺と付き合ってほしいと言ってきている。
どうする?
容姿も結構好み。幼い頃よりもかわいくなってきている。性格も優しくて、好きなタイプ。微笑みが素敵。
そして、俺のことを魅力的だと言ってくれた。うれしい。
小学校三年生の時以降は、俺よりも他の子と遊ぶことを優先する方向になっていた。その頃のことをどうしても思い出してしまう。
しかし、今の夏森さんであれば、誰よりも俺のことを優先してくれそうな気がする。
夏森さんの想いに応えて、幼馴染というところを越えて、恋人どうしになるべきでは、という思いが少しずつ強くなってくる。
でも俺には、紗緒里ちゃんがいる。
まだ付き合っているわけではないが、彼女のことを恋し始めているところだ。
まず紗緒里ちゃんとの関係をきちんとするべきだろう。。
夏森さんには申し訳ないが、ここは断るべきだと思う。
「ごめん。俺には夏森さんはもったないないと思う。だからあきらめてくれ。俺なんかより素敵な人を恋人にした方がいい」
断るのはもったいない気がするが、仕方がない。これで、彼女もあきらめてくれるだろう。
「海春くん、どうして断るの? わたし、自分で言うのもなんだけど、尽くすタイプなのよ。それに、幼馴染じゃない。幼馴染どうしが付き合うって、素敵なことだと思う」
俺もギャルゲーでは、幼馴染キャラクターを選択することが多いけど……。
「わたしが海春くんの恋人になって、婚約して、そして結婚したら、きっとあなたを幸せに出来ると思うわ」
婚約、結婚……。まだ付き合っていないのに、どうしてそこまで言えるんだろう。
「いや、俺、夏森さんとは、幼馴染だけど、疎遠になっていて、最近そんなに話したことがないから、まずお互いを理解し合うところから始めるべきだと思う。お互いを理解していない状態で付き合っても、夏森さんに失礼じゃないかと思って」
「そんなこと、付き合っていけば、自然にお互いのことはわかってくると思うわ」
「でも、それで俺のことが嫌になったら、夏森さんが傷ついちゃうと思う」
「海春くんのこと、嫌になることはないと思う。こんなに素敵な人、嫌いになる理由なんかないわ」
夏森さんは、一回言葉を切ると、
「それとも海春くん、誰か好きな人はいるの?」
と言ってくる。
「うーん、そうだなあ……」
紗緒里ちゃんのことは好きだ。
でもここで「好き」というは、仲が良いという意味での「好き」ではなくて、恋という意味での「好き」だ。
返事は難しいものがある。
俺がそのまま黙ってしまうと、彼女は、
「好意を持っている人はいるの?」
と言ってきた。
恋までは到達してない状態だが、俺は紗緒里ちゃんに好意を持っている。
「そういう人はいる」
と俺は言った。
「好意を持っている人はいるのね……」
と言ってガックリと肩を落とした。
「そうなんだ、だから、夏森さんと付き合うのは無理だ。あきらめてほしい」
俺はそう言い切った。
彼女には申し訳ないが、俺は紗緒里ちゃんとの関係に集中したい。
こう言えば、彼女はあきらめてくれるだろうと思ったのだが……。
「まだその人と付き合っているわけではないよね」
「うん。そうだけど」
彼女の表情が明るくなった。
「だったら、いいじゃない。付き合いましょうよ。付き合っていたら、その人に失礼だし、浮気になると思うけど、付き合っていないんだったら何の問題もないじゃない?」
「それはそうかもしれないけど」
それにしても、夏森さんは、もう少し穏やかな人だと思っていたんだけど。
俺に対しての恋心がそうさせているのだろうか。
「付き合ってください。わたしはあなたのことが好きです」
顔を赤くしながら一生懸命に言う夏森さん。
彼女の申し出を受けるべきか。
こんなにも俺のことを想ってくれる子はなかなかいない。
付き合ってもいいのでは、と思う。
しかし……。
紗緒里ちゃんの笑顔が心に浮かんでくる。
まだ付き合っていないとはいえ、彼女の想いは俺に伝わっているし、俺も彼女に心が傾き始めている。その想いに少しでも応えなければならないだろう。
夏森さんの申し出は断るしかない。
「その子とは付き合ってはいない。でもその子は俺のことが好きだし、俺もその子に好意を持っている。まだ恋ではないけど、俺は彼女のことを大切に思っているんだ」
「ここまでわたしは海春くんのことを想っているのに……。付き合って、夢海くんと名前で呼びたいのに……」
涙声になる夏森さん。
ごめん。想いに応えられなくて。でも、きっと、俺よりいい人とそのうち会えると思う。
俺はつらい気持ちになる。
しばらくの間、二人とも無言。
やがて、
「それならば、仲の良い友達としての関係ならどう? 幼馴染よりちょっと進んだ関係として。わたし、海春くんともっと仲良くなりたいの」
と夏森さんは、また明るい表情になって言った。
落ち込んでもすぐに立ち直る。そういえば、昔から芯が強い方だったと思う。
「それなら付き合うわけじゃないからいいでしょう?」
「そうだなあ……」
友達どうしだったら、恋人どうしではないんだし、紗緒里ちゃんも悲しむことはないだろう。
「うん。仲の良い友達どうしだったらいいよ」
「ありがとう。これからよろしくね」
夏森さんは、満面の笑み。
こんなに喜んでもらえると、俺もうれしい気持ちになる。
「じゃあ、連絡先も交換しましょう」
俺は一瞬その申し出に悩んだ。
どういう内容を送信してくるんだろう。「好き」とかそういう内容なんだろうか。
俺は彼女に対しては、まだ恋という段階には到達していない。
そういうところに送信されてきても、困惑するだけだと思う。
好意を持っている紗緒里ちゃんから、「好き」と送信されてきているが、その対応に困っているところがある。
でも友達になることをOKしたのだから、受けないわけにもいかない。
「うん。いいよ。でも返事は期待しないでね」
「返事はできればほしいけど……。でもいいわ。返事を期待していては、やり取り自体がうまくいかなくなるようになると思う。わたし、海春くんに振り向いてもらえるよう、もっともっと努力する」
俺達は、ルインやメールアドレスを交換した。
「これから毎日送信するのでよろしくね」
夏森さんは、そう言って笑った。
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