先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。

第25話 ますます俺のことが好きになる紗緒里ちゃん

　しばらくの間、二人はカレーライスを食べる。

「これで少しは、紗緒里ちゃんの役に立てたかな」

　俺がそう言うと、

「こんなおいしいカレーライスが食べられるなんて……。わたし、ますますおにいちゃんが好きになりました。毎週食べたいくらいです」

　と紗緒里ちゃんが言う。

「じゃあ、毎週作ってあげようか」

「いいんですか？　でもそれじゃ、おにいちゃんの負担が増えてしまう気がします」

「いや、別に負担じゃないから」

　今日作っていて思ったのだが、恋というものとは別に、彼女の為に作るということは楽しいものだと思った。

　俺は一人暮らしを始めて以来、楽しんで料理を作ったことはなかった。

　もちろんおいしい料理が作れればうれしいが、面倒だと思ったり、つらく思ったりすることがどうしてもあった。

　また、料理というものは時間が結構かかり、その分だけゲームをする時間が減ってしまうので、その点からしても、短い時間でそれなりのものを、という方向にどうしても行ってしまっていた。

　ただカレーライスだけは、もともと大好きだったので、いつももっとおいしくできないだろうかと思い、努力をしてきた。

　その結果が実ったようで、楽しく作れたとともに、おいしいものを作れたという達成感もあった。

　そして、こんなにも喜んでくれる彼女。この笑顔がなんといっても作る為の原動力となる。

「俺、紗緒里ちゃんの為に、この休日の夜は毎週作ってあげたいんだ」

「おにいちゃん、わたしの為に……」

「紗緒里ちゃんが俺の役に立ちたい気持ちは、今日ますます感じた。でも俺はそれに甘えてはいけない。だから、お願いしたいと思う」

「わたしとしては心苦しいです。でもおにいちゃんがそう言うなら仕方がないですね。それにわたしとしても、このカレーライスは食べたいですから。なんか申し訳ない気持ちです」

「いや、申し訳なく思わなくていいよ。それじゃ、いいね」

「そうですね。ただ、それだけじゃ、おにいちゃんに申し訳ないので、今日みたいに正午頃に来て、家事をさせてください。昼食の方もわたしに任せてください」

「うーん、昼食をお願いするのは、紗緒里ちゃんが大変だから遠慮した方がいいと思ったんだ。ただでさえ、その後にそうじや洗濯があるんだから。今日のサンドイッチはおいしかったけど」

「わたしだったらこれくらいでつらいなんて思いませんので、遠慮しなくていいです。お昼の方はわたしに作らせてください」

　彼女の申し出は受け入れるべきだろう。

「うん。じゃあお願いする」

「ありがとうございます。晩ご飯と同じくらいのメニューでいきたいと思います。そして、毎週メニューを変えていきたいと思いますけど、要望があったら言ってください」

「紗緒里ちゃんの好きなものを作ってもらった方がいいと思っている二人で同じメニューのものを食べるんだから」

「そう言ってもらえるのはありがたいんですが、わたしとしては、おにいちゃんが好きなものを食べてほしいんです。ですから、こういうものが食べたいって言ってくれるのがありがたいですね」

「うん。そうだな。まあいずれにしても紗緒里ちゃんの負担になるべくならないようにするよ」

「それでは来週から作りますんで、よろしくお願いします」

「よろしく」

「後、野菜の盛り付けとか味噌汁とか、今日は全部おにいちゃんがやっていましたけど、次からはわたしにさせてください」

「これも紗緒里ちゃんの負担を減らしたいからと思ったんだけど」

「もともと晩ご飯はわたしが作るつもりだったんですから、これくらいはさせてください」

「紗緒里ちゃんがそう言うなら……」

　俺はこの申し出も受け入れることにした。

　昼食、晩ご飯、もともと俺が全部自分で作るつもりだったのだが……。

　俺としても、この負担が減るのはいいことではあるのだが、紗緒里ちゃんにそれだけ負担がいってしまう。

　この点は悩むところだ。

　彼女は喜んでやってくれる。俺のことを好きだから、役に立ちたいと思っている。

　その想いは、一途で美しい。

　それに対して俺は、まだまだそれだけの想いを彼女に持てていない。

　そういう状態なのに、彼女に家事をやってもらっていいのだろうか、と思う気持ちがある。

　そう思っていると、

「おにいちゃん、今週からは、平日も晩ご飯を作りに来たいんですけど」

　と紗緒里ちゃんが言ってきた。

「平日？　そんなことしたら紗緒里ちゃんが倒れちゃうんじゃない？」

「だって、将来の妻になるんですよ。それくらいはしないと」

「そうは言っても、それじゃ毎日になっちゃうじゃない」

「わたしは、それでいいんですけど」

「いや、紗緒里ちゃんの負担がそれこそ増えちゃう」

「おにいちゃんが心配してくれるのはありがたいんですけど、このままだと、仲の良いいとこのままな気がして」

「気持ちはわからないわけじゃないけど。それはもう少し経ってからにしたい。ごめん」

　今はそう言うしかない。

　紗緒里ちゃんは、悲しそうな表情になった。しかし、すぐに切り替えて、

「わたしの方こそごめんなさい。ちょっと急ぎ過ぎたかもしれません。でも今週はダメでも来週からはお願いしたいです」

　と言って微笑んだ。