第24話 晩ご飯を食べてもらう
紗緒里ちゃんは食べ終わり、食器を洗った後、そうじと洗濯を行う。
俺は本意ではないのだが、ソファでくつろぐことにする。
彼女を手伝いたい気持ちは大きかった。しかし、彼女の、
「おにいちゃんの為に役立ちたい」
という気持ちは強く、結局手伝うことはできなかった。
彼女は楽しそうに作業をしている。
俺の場合、嫌々ながらやることが多い。その点、彼女はたいしたものだ。
しかも、部屋のすみずみまでそうじをしてくれている。
これも俺にはなかなかできないこと。
俺も休日に全部屋のそうじはしているが、掃除機をかけるだけで結構手一杯なところがある。彼女のように、細かいところの水拭きまではしないのが普通。
それでも時間がかかるので、全部屋終える頃には結構疲れている。
それを彼女は、かなりのスピードでこなしていっているし、疲れもあまりないようだ。
日頃、自分の家でこうしたことしているのだろう。
そう言えば、俺が昔、おばさんの家に行った時、幼いながらにそうじの手伝いをしていた。おばさんにいろいろ指導を受けていたなあ……。
「おにいちゃん、終わりましたよ」
台所から洗面所、リビングと、見違えるようになっている。
「ありがとう。きれいになっている」
「少しでもおにいちゃんのお役に立てたら、うれしいです」
「いや、これで充分だよ。充分すぎるくらい。ありがとう。すごいと思うよ、紗緒里ちゃんは」
「褒めていただいてありがとうございます」
「じゃあ、コーヒーをいれてあげる。疲れているでしょう」
「これくらい大丈夫です。今すぐ出かけてもいいですよ」
と言って紗緒里ちゃんは微笑んだ。
「でも少し休んでからにしよう。紗緒里ちゃんの体が心配だ」
「わたしの体を気づかってくれて、うれしいです」
俺達は、ソファに座り、コーヒーを飲んでしばしの間くつろぐ。
とは言っても、俺は彼女がそうじを眺めていただけだ。
これからは、彼女の為に料理を作ってあげなきゃいけない。
「おにいちゃん、わたしはもういいですよ。そろそろ買い物に行きましょう」
やがて、紗緒里ちゃんはそう言った。
「もう少し休んだ方がいいんじゃないの?」
「お気づかいありがとうございます。でももう平気ですから」
もう少し休んだ方がいい気はするんだが。
しかし、彼女はもう出かけたいといっている。その想いは汲んであげないといけないだろう。
「紗緒里ちゃんがいいならいいけど。じゃあ、行こうか」
「行きましょう!」
ニッコリと笑う紗緒里ちゃん。
俺達は家を出て、食材を買いに行く。
今日の夜はカレーライスを作る。
「期待しています。おにいちゃんの作るものですから、おいしいに違いないと思います」
紗緒里ちゃんに期待されるのはありがたいんだが、期待はずれだった時はつらいと思う。
とにかく精一杯努力するのみ。
カレー粉と肉やじゃがいもなどの具材を買ったのだが、俺の食生活を聞いた紗緒里ちゃんは、
「おにいちゃん、キュウリやキャベツは食べているようですけど、トマトも食べた方がいいですよ。後、ヨーグルトも食べた方がいいですよ」
と言ったので、そういうものも買うことにした。
紗緒里ちゃんの言う通り、トマトやヨーグルトは、最近ほとんど食べたことはなかった。
嫌いというわけではないが、なんとなく敬遠をしていた食べ物だ。
今後は紗緒里ちゃんの言う通り、食べていくことにしたい。
それにしても、紗緒里ちゃんは栄養面の配慮もしてくれる。
いい奥さんになるのは間違いないのだが……。
そうして買い物が終わり、家に帰ってくる。
今日これまで、彼女にはいろいろしてもらった。
これからは、彼女の為に尽くす時間だ。
今度は、彼女の方にソファに座ってもらい、くつろいでもらう。
「おにいちゃん、野菜を切るぐらいはさせてください」
と彼女は言ったのだが、
「いや、晩ご飯の方が全部するから」
と言って、申し出を断った。
残念そうな顔をする彼女。
彼女も今日一日、既にそうじと洗濯、そして買い物で結構疲れていると思う。
休んでいる時間を取れればよかったのだが、それほど取れていないので、今は休んでもらうのが一番。
あまり無理をさせてはいけない。
俺は彼女にコーヒーをいれた。
「これを飲んで待っていてね」
「おにいちゃんがそう言うなら仕方ないですけど……」
しぶしぶといった表情の紗緒里ちゃん。
俺は台所に戻り、カレーを作り始めた。
彼女の為、一生懸命作った。
そして……。
「紗緒里ちゃん、出来たよ」
「わーい。おにいちゃんのカレーライスだ」
「味は合うかどうかはわからないけどね」
「きっとおいしいカレーライスになっていると思います」
俺と紗緒里ちゃんは、テーブルに向かい合って座った。
カレーライスの他に、キュウリとキャベツそしてトマトといった野菜類と味噌汁、そしてヨーグルトが今日の晩ご飯となる。
「いただきます」
「いただきます」
紗緒里ちゃんは、まずカレーライスを一口食べる。
どうだろう。彼女の口に合ったのだろうか。会わなければ、俺に今日尽くしてくれた彼女に申し訳ない。
緊張の一瞬だ。
おいしくないと言われるかもしれない。でも、それはそれで、しょうがないだろう。どんどん料理の腕を磨いていくしかない。
そう思っていると、
「いい味ですね。おにいちゃん、さすがです。おいしい」
と紗緒里ちゃんは、満面の笑みを浮かべて言った。
俺はホッとした。
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