第13話 振られたわたし (のずのサイド)
「そこまで言うなら教えてやる。まず付き合っている人より先に来るという意志がない。服装は地味でゴージャスじゃないし、駅で一目見た時から気力がなくなってしまったよ。こんな子に一日付き合わなきゃならないってね。今日来ていた女の子たちを見ていたら、あまりの差に驚いてしまったよ。話しをしていてもつまらないし、もうどこをとっても魅力がない。別れるだけだ」
と彼は、怒りを交えながら言った。
「そんな、そこまで言うなんて……」
わたしがうなだれていると、
「待った?」
という声が後ろから聞こえてきた。
「ああ。待っていたよ」
知らない子だが、わたしと同学年のように思う。彼の知り合いなんだろう。
わたしと違ってずいぶんとゴージャスな服を着ている。こういう服装の子が趣味ということなんだろうか。
「じゃあ、これからデートしましょう。あれ、この子は」
「ああ。気にしないで。ただの知り合いだから」
「あ、そう」
彼女は特にわたしに興味はないよう。
「じゃあ、行きましょう」
と言って、彼女は彼の手を握った。
そんな、わたしが熱望していたことをあっさりとするなんて……。
二人は、仲睦まじげに歩いて行く。
彼には別れのあいさつ一つもされなかった。
わたしはしばらくの間、その場に立ち尽くしていた……。
わたしは、その後、気分がなかなか良くならなかった。
彼のことを好きで狙っている人たちからは、
「あなたに合うわけはないと思っていたのよ」
「もう少し優しい人じゃないとね」
「わたしたちにもチャンスがきたわね」
と言われたりした。
「合うわけない」
と言われたことが、一番腹が立ったが、その他の言葉も好意からの言葉ではなく、トゲのある言葉で、気持ちのいいものではない。
友達と遊んでもあまり楽しくない。
それだけ振られたことによる心の傷は深かった。
そういう状態が続いたまま、残りの二学期も過ごし、冬休みも三学期も、そして春休みも過ごすことになった。
今は春休みの最終日。明日からは学校。
ますます憂鬱になってくる。
食欲もあまりなく、晩ご飯も半分以上残した。
午後十一時を過ぎたので、ベッドに入るが、なかなか眠ることができない。
デートで失敗したことが、どうしても心に浮かんできてしまう。
だいぶ時間は経っているのに、まだ心の傷は癒えない。
せっかくイケメンと付き合うことができたと思ったのに。
彼の為にいろいろ準備をし、気に入ってもらう為に一生懸命努力したのに……。
服装が地味だと言うけど、わたしなりに精一杯おしゃれをしたつもりだった。それなのに、全く見向きもしてくれない。普通だったら少しは褒めてくれると思う。
こんな冷たい人だとわかっていたら、告白なんかしなかったのに。何を考えていたのだろう。
ああ、もう何もかも嫌になってくる。
そういう思いが、ここのところずっとわたしの心を占めている。
だれか、いい人と付き合えれば、彼のことなんか忘れられるのにな。
そう思っていると、海春くんのことを思い出した。
そうだ。海春くんはわたしに告白してくれたんだ。なぜそのことをずっと忘れていたんだろう。
わたしは今まで、いろいろな人に告白されたし、でも全員断ってきた。
全然わたしの好みじゃなかったから。
海春くんも好みじゃなかったから、すぐ断ったんだけど……。
わたしは、振られたことで、理解したことがある。
イケメンだからと言って、優しいとは限らないこと。
そして、いいと思ったからと言って、気が合うとは限らないこと。
こんな初歩的なことさえ理解していなかったわたし。情けない。
その点、海春くんは、よく思い出していくと、わたしに対して気配りをしてくれた。
そんなに会話をしたわけじゃないけど、意外と話しをしていて楽しかった気がする。
そして、何といっても、海春くんの告白には熱意がこもっていた。今まで、いろいろな人に告白されたけど、彼ほどの熱心さはなかった気がする。
ああ、なぜわたしは海春くんの告白を断ってしまったんだろう。
わたしの中で、急激になぜ海春くんを振ってしまったんだろう、という気持ちが膨れ上がってくる。
あんないい人、なかなかいないのに。わたし、どうして振ってしまったんだろう。
今からでも彼と付き合うべきだと思い始めている。
でもわたしが振ったことで、わたしのことを受け入れなくなることはないだろうか。
彼はわたしのことが好きなんだ。きっと受け入れてくれるだろう。
いや、わたしにもプライドがある。
一度振った相手に、失恋したから付き合ってくれと言うのは、みじめなことじゃないかと思う。
彼の方からもう一度告白してもらい、それでわたしがOKするのが、一番いいと思う。
わたしから頭を下げたくはない。ないんだけど……。
もし、彼から何も行動をしてこなかったらどうしよう。
その可能性は充分にある。
わたしは彼に、
「あなたが何も言っても、あなたのことを好きにはならないわ」
と冷たく言ってしまったことを思い出した。
思い出すと、なんてひどいことを言ってしまったんだ、と思った。
普通の人だったら、言った人のことを嫌いになるだろう。わたしが同じ立場だったとしても嫌いになってしまうと思う。
イケメンの彼の告白を受け入れずに、海春くんの告白を受け入れていれば、こんな苦しい思いをしないですんだのに……。
涙が自然と流れてくる。
わたしは、海春くんと気が合いそうだと思っていた。それなのに告白を断ってしまった。
ああ、つらい。
わたしは、そのまましばらくの間、泣き続けていた。
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