第40話 紗緒里ちゃんの部活

 四月下旬。


 木々には新しい緑。そして、陽射しが強くなってきて、さわやかな風が吹き始める季節。


 ゴールデンウイークまで後もう少しとなってきた。


 ここ数日は、雨が続いていて、少し憂鬱なところもあった。


 しかし、今日は晴れていて気持ちがいい。


 こういう日が続いてくれるといいんだけど。


 あれから、というと。


 夏森さんとは、教室で話をするようになった。ルインも毎日送ってくる。


 教室での会話はまだまだぎこちない。


 しかし、ルインでは、毎回、


「海春くん、好きです」


 と送信してきて、俺へ熱い想いを伝えてくる。


 相変わらず対応に困っているところはあるが……。


 夏森さんは、強引なところもあるが、恥ずかしがり屋なところもある。


 対応がなかなか難しいところがある子だが、少しずつ彼女への好意は持ってきているところだ。


 彼女とは、仲の良い友達としてやっていければいいと思っている。


 紗緒里ちゃんは、料理部に入るかどうかで悩んでいたところもあったようだが、


「アニメ・漫画部に入ろうと思います。わたし、アニメも漫画も好きですし、それに同じ部に入れば、それだけおにいちゃんと一緒にいる時間が長くなります」


 ということで、俺の入っているアニメ・漫画部に入部してきた。


 このアニメ・漫画部は、各人の個性を尊重する部なので、何をやっても構わない。


 コンテンストを目指してもいいし、コミケに向けて同人誌を作ってもいい。


 作品についての論議をしてもいいし、好きなキャラクターに熱を入れてもいいし、ボーッとした時間を過ごしていてもいい。


 ただ学園祭の時だけは、毎回、作品を出品しているので、部としてまとまって動いている。


 まあ、こうした自由な風潮の部だ。俺はそういうところが気に入っている。


 でも自由というか、みんな自分の世界に入っている人が多いので、紗緒里ちゃんは、そういう人たちとうまくやっていけるのかなあ、と思っていた。


 また、この部には、カップルが二組もいる。


 普通だったら、羨ましいと思ったり、中には妬んだりすることもあると思う。


 それが部の雰囲気を良くないものにすることだってあるだろう。


 しかし、うちの部は、男の子と女の子が仲良くしていても、誰も何も言わないどころか興味も示さない。


 俺は、恋人がほしいと中学生の頃から思っていたので、最初、部でカップルを見た時は、なんて羨ましい人たちだと思ったものだ。


 しかし、次第に普通の風景として思うようになっていき、そのうちに何も思わなくなっていった。


 それだけ、この部の雰囲気になじんでいったということは言えるのだけど。


 紗緒里ちゃんも、最初は驚いていて、


「部の中で体を寄せ合うほど仲良くしていて、よくみんな平気だと思います」


 と言ったものだ。


 しかし、彼女はすぐにこの部の雰囲気になれたようだ。


 自分の世界に入っている人たちが多いことについては、


「わたしもそういうところがあるから、気にしていません。むしろそういう雰囲気の方が好きですよ」


 と言ってくれた。実際その雰囲気が好きなようだ。


 そして……。


 最初は連慮していたのだが、最近は、この部にいるカップルと同じように、紗緒里ちゃんも俺に体を寄せてくる。


「おにいちゃん、好きです」


 そう言いながら体を寄せてくるので、その度に胸がドキドキしてしまう。


 たださすがに、制服と制服が触れ合う程度までに抑えていて、他のカップルのようにもたれかかるというところまではいかない。そこまで言ったら、もう心が沸騰してしまうだろう。


 自分の家ならともかく部室でそういう状態になってはいけないと思うので、彼女が自制して助かっていると思う反面、もたれかかってほしいなあ、と思う気持ちもある。

 複雑な気分だ。


 俺は高校に入るまで、康一郎以外の人とはアニメの話をしたことがほとんどなかった。


 まあそれに限らず、俺は康一郎以外の人と話をした記憶はあまりないのだが……。


 康一郎ともそこまでアニメの話を多くしていたわけではないので、アニメの話をもっとしたいという気持ちは持っていた。


 そういう意味では、この部に入って以降、この部の人達とアニメの話をしたりはしているので、以前よりはいいと思っていたところはある。


 しかし、話をすることが苦手なところはなかなか治らないので、もう少し親しく話せる人がいた方がいいなあ、と思っていたところだった。


 俺は彼女にこの部に来てもらってよかったと思っている。


 彼女は、俺と好きなアニメの傾向が同じだし、何といっても親しく話せることができる。


 最近は、毎日夕方から夜にかけて俺の家に来て、おしゃべりをしているが、制服を着てこうして同じ部の中でおしゃべりができるというのは、また違った味わいがあるものだ。


 紗緒里ちゃんは、俺と少しでも長く一緒にいたい、と言ってくれたが、俺も紗緒里ちゃんと一緒にいる時間がどんどん楽しいものになっていて、少しでも長く一緒にいたいと思うようになってきた。


 まだいとこであることへのこだわりは、なくなったわけではない。


 でも始業式の頃に比べると、それはもうかなり薄くなってきた。


 既に俺の心は、彼女が近くにきただけでも熱くなることが多くなってきていて、キスしたくなることもある。


 もちろんまだ付き合っていないので、なんとか自制しているが、こういう状態が続いているので、もう、


「紗緒里ちゃんのことが好きだ」


 と紗緒里ちゃんに言ってもいいのではないかと思う。


 しかし、それでもまだ俺はその言葉を言えない。


 紗緒里ちゃんのことを好きな気持ちは、大きくなってきている。いとこというところも、もう少しで乗り越えられるところまで来ている。


 紗緒里ちゃんも俺と相思相愛になりたいと思っているのだ。

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