第39話 想いを伝える (寿々子サイド)

 月曜日になった。


 ついに今日、今度こそわたしは海春くんに告白する。


 やっとここまできた。


 時間がかかったと思う。


 小学校三年生の時に、わたしが選択を間違えた為に、海春くんに寂しい思いをさせてしまっただろうし、わたし自身もつらい思いをしてしまった。


 これからは違う。


 わたしは海春くんのもの。いや、恋人どうしになったのなら、もう苗字読みはしない。


 幼馴染としての関係も乗り越えるのだから、夢海くんと呼びたい。


 少し睡眠が不足しているが、それも気合で乗り越えていく。




 朝の教室。


 わたしは席で海春くんが来るのを待つ。


 今日こそは、と思うだけに、胸がドキドキして苦しい。


 うまく告白できるだろうか。いや、告白しなければならない……。


 そう思っていると、彼が教室に入ってきた。


 まず、声をかけなくっちゃ。


 わたしは、無我夢中で海春くんのところへ行き、


「海春くん。昼休み、ちょっと話があるんだけど」


 と一挙に言った。


 やっと言うことができた……。


 この言葉を言うのに。何か月もかかってしまった。


 でもこれで一歩前進することができた。


 次はこの呼び出しに乗ってくれるかどうか。


「それは昼休みに話すから、お昼ご飯を食べた後、体育館の入り口まできて。お願い」


 わたしは頭を下げ、熱を込めて海春くんにお願いをした。


 どういう返事になるか、断られてしまうかも、と思ったが……。


 OKをしてくれた。


 これで、わたしの想いを伝えられる。


 わたしはホッとした。


 しかし、これはまだ始まったところ。


 昼休みの告白が一番大切だ。


 断られるかもしれない。気分もなんだか安定しない。こんな気分で告白するのは難しいかもしれない。明日以降にしたい気もする。でも今日告白しなければならない。


 わたしは弱気になりそうな気持ちを抑え、心を奮い立たせていくのだった。




 そして、昼休み。


 わたしは一生懸命その想いを海春くんに伝えた。


 恋人になりたいだけではなくて、婚約、結婚をしたいと言った。


 しかし……。


 恋人になることはできなかった。


 しかも海春くんには気になっている人がいるという。


 悲しくて涙が出て来た。


 小学校三年生の時に、海春くんの誘いを断らなければ、今頃はララブブになっていたのに……。


 どうしてもそう思ってしまう。


 でもこれくらいであきらめてしまうわけにはいかない。


 わたしは気持ちを切り替えて、


「それならば、仲の良い友達としての関係ならどう? 幼馴染よりちょっと進んだ関係として。わたし、海春くんともっと仲良くなりたいの」


 と言った。


 今は恋人まではいけなくても、仲の良い友達になりたい。


 わたしの一生懸命なお願いだった。


「うん。仲の良い友達どうしだったらいいよ」


 海春くんはそう言ってくれた。


 そして、ルインのやり取りもOKしてくれた。


 恋人どうしにはなれなかったとはいえ、今までのことを思うと、一歩前進したことには違いないだろう。


 わたしは関係をさらに進めたくて、海春くんに、一緒に帰ろうと誘った。


 ところが……。


 昼休みに彼が言っていた、気になる人。


 その人がわたしの前に現れた。


 紗緒里さん。


 かわいい人だ、わたしが海春くんだったとしても好きになってしまいそうな人。


 彼女は、自分を海春くんの婚約者だと言った。


 そして、結婚したいと言った。


 わたしは、怒りの感情が湧いてきた。


 自分で言うのもなんだけど、そんなに怒ったことのないわたしが、なぜこんなに怒ってしまうんだろう……。


 わたしも、海春くんと婚約して結婚したい、と言った。


 言い争いは続いた。


 それにしても、わたし以外に海春くんのことを好きな人がいるなんて……。


 いや、りなこちゃんも言っていた、


 海春くんのことを恋という意味で好きな人が増えていること。その中で、告白しようとしている人がいること。


 紗緒里さんは同じクラスの人ではない。それなのに、恋人どころか、婚約、結婚までしたいと言っている。


 わたしは告白するのは遅かったのだろうか。


 わたしが告白するかどうかで悩んでいる間に、先を越されてしまったのだろうか。


 いや、まだ海春くんは紗緒里さんと付き合ってはいないようだ。


 その点では、まだまだチャンスはある。


 海春くんはわたしのもの。わたしは海春くんのもの。


 でも、今のわたしは、紗緒里さんに比べると、まだまだ海春くんへの想いが足りないと思わざるをえない。


 今日のところは、紗緒里さんの方が優勢だと思わざるをえない。


 つらい気持ちではあるけれど。




 夜。


 わたしは、これから海春くんにルインを送る。


 好きという言葉を、どんどん送っていこうと思っている。


 今までは女の子どうしでしかやり取りはしたことはない。好きな人に好きという言葉を送るのは、恥ずかしい気持ちはがある。しかし、もうそんなことは言っていられない。


 わたしは、どんどん海春くんへ想いを伝えていく。紗緒里さんの想いを越えていくことが第一の目標。


 そして、海春くんと恋人どうしになり、婚約をして、結婚をする。


 今日は、うまくいかなかったけど、どんどん好きだという気持ちを伝えていこう。


 わたしは、そう決意するのだった。

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