第21話 紗緒里ちゃんと向き合っていく
「今日は朝からまた夫婦ゲンカだったな」
「鈴乃ちゃんって、なんであんなにやきもちやきなんだろう……」
放課後。
教室で俺と康一郎は話をしていた。
俺も康一郎も今日は部活のある日。もう少ししたら、俺はアニメ・漫画部、康一郎はテニス部に向かう。
「やきもちをやかれるって言うのは、それだけお前のことが好きだからだろう」
「それはそうかもしれないけど。ちょっと度が過ぎている気はするよな。だって、ちょっとかわいいって言っただけで怒り出すなんて」
「鈴乃ちゃんって、幼い頃からほんとお前の方しか向いていないよな。一緒に遊んでいても、俺のことには全く関心がなかったもんな。しかも、幼稚園の頃からだよ。これってすごいことだと思うけど」
「そうだな。それはわかっているから、俺も彼女の愛に応えたいとは思うんだけど。俺だって幼稚園の頃から、彼女のことが好きだったんだ。でもかわいい子にはかわいいって言いたくなるんだよ。その気持ちはわかってほしいよなあ」
ため息をつく康一郎。
「まあ俺は鈴乃ちゃんの気持ちはわからなくはない。これだけテニス部で活躍していてかっこいいんだ。お前結構モテるだろう?」
「俺が? またまた冗談を。俺がモテるわけないじゃない。冗談は言わないでほしいなあ」
「冗談なんか言っていないよ。お前、いつも女の子から声援を受けているだろう」
「あ、あれは、テニスをしている俺に声援をおくっているだけで、俺自身に声援をおくっているわけじゃないのさ」
「あきれたやつだなあ。いずれにしてもお前に声援をおくっていることには違いないのに。ただそういう声援がこの頃ドンドン大きくなってきている気がするから、それでなおさら鈴乃ちゃんがやきもちをやくようになってきているんだと思う」
「別に俺自身に対しての声援じゃないし、どうしてそう思うんだろう。俺は鈴乃ちゃんしか愛していないし」
康一郎の方も、鈴乃ちゃんの方にしか恋愛の感情は向いていないのだろう。
「まあ俺はお前達の幼馴染だから、これからも仲良くしてもらいたいと思っている」
「もう少し柔らかくなってくれるとありがたいんだけど。今日みたいにすぐ怒られると、俺もちょっとつらいところがある」
「まあ怒られたら、その分、『好きだ』って言うしかないだろうね。鈴乃ちゃんって、結構言葉で伝えてほしいと思っているタイプだと思う。だから、鈴乃ちゃんに対する想いを、その度に伝えるしかないと思うな。俺の言うことじゃないけど」
「お前の言う通りだな。その点はこれから気をつけていくよ。いつもアドバイスありがとう」
頭を下げる康一郎。
「いやいや、アドバイスなんて。俺はただ二人にはいつまでも仲良くしてほしいだけだ」
「その気持ちがうれしいんだ」
「とにかく、仲良くな」
俺と康一郎は微笑み合った。
「ところで紗緒里ちゃんの方はどうなんだ」
康一郎は話題を変えてくる。
「どうって?」
「紗緒里ちゃん、お前に猛烈な勢いで恋をしているな。昨日お前から彼女のことは聞いていたけど、あそこまですごいとは思わなかった。俺の想定を越えていたよ。これはもう付き合うしかないんじゃないかと思う」
「俺も彼女の気持ちはわかるんだけど……」
「じゃあ、今すぐ彼女のところへ行って、『好きです。付き合ってください』と言ってこい。こういう良いことは、思ったらすぐに実行するんだ」
「いや、まだそこまでは」
「どうして告白しようとしないんだ。彼女はいつでもお前が言うのを待っていると思うぜ。それとも彼女のことが嫌いになったのか? あんなかわいく優しい子なのに」
「いや、嫌いになったとかそういうことはない」
「じゃあどうして。普通だったら、嫌いになる以外、彼女のところへすぐ行かない理由はないと思うけどな。いとこだということを気にしているのかもしれないが、気にする必要はないと思うし、気にしているんだったら、それを乗り越えないといけないと思う。俺には、お前が彼女のところへ行かない理由がわからない」
「ごめん」
「いや、別にいいんだけど」
「紗緒里ちゃん、俺の理想の子に成長してきていると思う」
「ならいいと思うけど」
「でも俺の方は、紗緒里ちゃんの理想の人になっているかどうか、それがわからないんだ。今は昔のいいイメージで俺のことを好きでいるのかもしれないけど、幻想だったとしたら、嫌われてしまうだろう。嫌われたらそこで今までの思い出は、つらい思い出に変わってしまう。そう思うと、まだ付き合うことはできないと思うんだ。それに、いとこだというところも影響はしている。そこは、お前の言っている通りだと思う。まず俺がいとこであることを乗り越えなきゃならないと思う。そして、もう少し、彼女と接していって、それでも俺のことを嫌いにならないで、好きでいてくれたら、告白しようと思っている」
「すごいなあ。お前は。そこまで彼女のことを想っているんだ」
「紗緒里ちゃんの想いが猛烈だからこそ、俺も紗緒里ちゃんにきちんと向き合わなきゃいけないと思う」
「お前の気持ちはよくわかった。だけど俺、紗緒里ちゃんを幸せに出来るのはお前だと思う。それは忘れないようにな」
「ありがとう」
「いや、今日は俺の方こそアドバイスをありがとう」
そろそろお互い部活の時間だ。
「じゃあ、バイバイ」
「バイバイ」
俺達は教室を後にし、それぞれの部活に向かっていった。
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