第4話 アドバイス

 それにしても、ちょっとかわいい子の方を向いただけで浮気だとは……。


 想像を絶する世界だ。


 それだけ鈴乃ちゃんの康一郎のことを思っているということなんだろうけど」


「俺のことはともかく、彼女とはどうなんだ」


「どうって」


「結構仲良さそうに話をしていたじゃないか」


「そりゃあ、お前の知っている通り、妹みたいにかわいがった子だからな」


「それで、お前彼女に告白はしたのか?」


 ニヤニヤしながら言う康一郎。


「告白?」


「そうよ。もともとお前彼女が好きだったんだろう? それに彼女だってお前のこと好きだったんだと思う。俺も一緒に遊んでいた時にそれは感じていたんだ。ということは相思相愛ってことじゃないか」


「待ってくれ。そもそも彼女はいとこだ。今まで恋愛の対象として想ったことはないんだ」


「何を言っているんだ。いとこは結婚できるんだ。どうして恋愛の対象にならないんだ」


「そうは言ってもなあ。妹と同じように思ってきた子なのに」


「大事なのは、お前の想いと彼女の想いだぞ。それだけだと思う。それで彼女の方は何て言っているんだ?」


「なんてって言われても」


 俺は恥ずかしさで言葉がでてこない。


「お前のこと、好きって言ったのか?」


「うん」


 俺は小さくうなずいた。


「これは驚いた」


「それだけじゃなくて、『結婚を前提に付き合っていきましょう』と言っていて」


「予想以上だな」


「そして、これから毎日晩ご飯を作りにきたい、って言っていた」


「すごいなあ。これはお前にすごく惚れているぞ」


「どうなんだろう。俺には、今だけの一瞬の想いに過ぎないと思うんだけど」


「またそんなことを言う。彼女はもともとお前が好きだったんだ。その想いがさらに強くなったってことだと思う」


「でも普通五年も会っていなかったら、忘れるもんだと思うけど。まして、幼い頃の話だし」


「うーん。ただ幼い頃の楽しい思い出の方が、心に残るもんだと思う。俺だってそうだよ。お前や鈴乃ちゃんと遊んだことは、幼稚園の頃のことだって思い出せるぜ」


「お前は鈴乃ちゃんのことがずっと好きだったからじゃないのか。俺はただのおまけだろう」


「そんなことはない。鈴乃ちゃんとの思い出は大切だけど、お前との思い出も大切なものさ。お前だってそうだろう?」


「もちろんお前は幼稚園の頃からの友達だ。ほとんど友達がいなかった俺にとってはありがたいよ。楽しく遊んだこともよく覚えている」


「そうだろう。だから、紗緒里ちゃんもそれと同じで、お前と遊ぶのが楽しかったから、忘れることなんかないんだ。そして、彼女はお前が好きなんだからなおさらだ」


「それはうれしいことだけど」


「どうだ。後はお前次第だ。付き合っちゃえよ」


「でも俺、今はまだその気になれない」


「どうして? 彼女はお前のことが好きなんだ。これは、もう付き合うしかないだろう」


「俺、恥ずかしい話、付き合っていける自信がない。今は俺のことを好きなのかもしれないが、いつ嫌いになるかわからないだろう。」


「それはないとはいえないな」


「俺は高校一年生の時、失恋をしている。お前にも話をしたことはあるけど、失恋はとても苦しいものだ。もし付き合っていって、俺のことを紗緒里ちゃんが嫌いになると、俺はまた失恋にすることになる。そのつらさを思うと……」


「お前の言うことはわからなくはないけどな。でも、状況は違うと思うぜ。先輩はお前のことは好きではなかった。もう付き合っている人がいたという話だろう」


「先輩はそう言っていた」


「しかし、紗緒里ちゃんはお前のことをずっと想ってきた。そこが違う。彼女の方から嫌いになることはないと俺は思う。こんなに長い間想ってきたんだ。お前はその彼女の想いを受け止めればいいと思う」


「そりゃ、お前の言うことはわかるんだけど」


「俺だって、鈴乃ちゃんと付き合う前は、お前と同じようなことを思ったことはある」


「それって、本当?」


 俺は驚いてしまった。


「本当だよ」


「だって、お前と鈴乃ちゃんって、幼稚園の頃から心が通じ合っているように思えたけど」


「俺の方は、彼女のことがどんどん好きになっていった。でも彼女の方は俺に好意を持っているのは知っていたけど、俺のことが異性として好きだというところまではわからなかった。なにしろ俺につらくあたることが多かったじゃない。お前も知っている通り。俺がグータラしているとすぐ怒りだすし」


「そうだったな」


 鈴乃ちゃんの康一郎への怒った顔が思い浮かぶ。


 今でもそうだが、幼稚園の頃から毎日のようにそういう顔を見ていた気がする。


 俺は鈴乃ちゃんのことが少し苦手だが、この様子を見ていると、そうなるのも仕方がない気がする。


「だから、小学校三年生の時に告白しようと思ったんだけど、子供ながらに、もし彼女と付き合っても、ケンカして別れちゃったら、それまでの思い出が全部壊れてしまうと思ったんだ。それに彼女は俺が幼馴染だから好きなだけだったかもしれないし」


「その年でよくそこまで考えたもんだな」


「それだけ真剣だったんだ。生涯の伴侶になるのは彼女しかいないと思った。でもそれは俺の独りよがりの可能性もあった。これでもいろいろ悩んだんだよ」


「当時、俺はそんなこと全然知らなった」


「俺と鈴乃ちゃんのことで、お前に心配をかけるわけにはいかなかったからな」


「まあ当時俺が相談されても、何もいいアドバイスは与えられなかったと思う」


「それで、告白したんだけど、彼女涙を流してね。『わたしも康一郎ちゃんのこと好きだったの』って言ってくれた」


「いいよなあ」


「それで付き合いが始まったんだけど、やっぱり俺、いつこの関係が壊れるか心配していたんだ」

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