第11話 紗緒里ちゃんへの想い
「もう一つなんですけど、メアドやルインの連絡先を交換しませんか」
「連絡先?」
「そうです。幼い頃、交換しておけばよかったんですけど。そうすれば、ずっとやり取りができて、今頃はラブラブになっていたのに、と思います」
彼女にとっても長い五年間だったんだろうと思う。
「わたし、この五年間、おにいちゃんとせめて電話で話をしたいとすっと思ったんです。でも電話って敷居が高くて……。いきなり電話しても迷惑だと思いました。恥ずかしさもありました。そして、何といっても、おにいちゃんがわたしのことをどう思っているかがわからなかったところが大きいです。もし電話して、わたしのことを何とも思っていなかったら、傷ついてしまって立ち直れなくなってしまう、と思っていたんです」
いろいろ悩んでいたんだなあ、と思う、申し訳ない気持ちになる。
「そうこうしているうちに五年近くが経ってしまって……。年が経つにしたがって、おにいちゃんへの想いがどんどん大きくなってきたのに、何も出来ないわたし。その間に、おにいちゃんが他の女の人を好きになったりしたらどうしょうとも思いました。おにいちゃんのような人だったら、もう恋人がいるんじゃないかとも思いました。こんな魅力的な人はいませんものね。そう思っても、電話一つできないんです。情けない思いで一杯でした。それが、やっと今日、おにいちゃんへの想いを伝えることができたんです」
「紗緒里ちゃん……」
「出来れば、さっき言ったおにいちゃんへのお手伝いだけじゃなくて、この家自体に住んで、おにいちゃんの世話全部をしたいと思っています」
それは、同棲というものでは……。
俺は昔から同棲というものにあこがれてきた。
しかも今は一人で住んでいることもあり、恋した女の子とならば、今すぐにでもしたいと思う。
でも彼女をその対象にするには、もっともっと時間が必要だ。
「それは紗緒里ちゃんにますます負担をさせるだけだから」
「わたしはいいんです。お母さんもわたしが申し出れば賛成してくれると思います。お父さんにだって嫌とは言わせません。わたし、おにいちゃんが好きなのですから」
そう言って微笑む紗緒里ちゃん。
「とにかく連絡先を交換させてください」
「わかった」
連絡先の交換は、男女の友達どうしでも普通に行うことだから、別にいいだろうと思う。
俺と紗緒里ちゃんは連絡先を交換した。
「ありがとうございます。これで今日から毎日おにいちゃんに連絡できる。うれしいなあ」
「これから毎日するの?」
「そうですよ。毎日おにいちゃんへの愛を伝えていきます。いいですよね?」
「うん。それは構わないけど。でも毎日は大変じゃない?」
「そんなことないですよ。これから毎日おにいちゃんに『好き』って書けるんですもの。これ以上の素敵なことはないと思います」
俺はこの言葉を聞いて、悩み始める。
「好き」と書いてきた場合、返事はどうするべきか。
俺はまだ彼女に恋をしているわけではない。
では彼女に、
「俺はまだその気持ち応えられない」
と返信すべきなんだろうか。
それは彼女の心を傷つけることになってしまうことになってしまうだろう。
「ただ、俺の方は返事が出せなかったりすると思うけど。それでもいい?」
俺はそう言うしかなかった。彼女に恋するまでは、返事を出さない方がいいのではないかと思う。
でもそれで彼女は、いいと言ってくれるのだろうか。
「返事をしてほしい気持ちはもちろんありますけど。ただそれだと、わたしがわがままを言っているだけになりますよね。まだおにいちゃんの方は、そこまでわたしに気持ちが向いてないですもんね」
「ごめん」
「いいんですよ。最初はわたしが一方的に送るだけになると思っています。でもわたしがおにいちゃんに想いをずっと伝えていけば、きっと相思相愛になれると思っています。だから、今日は連絡先を教えてもらって、毎日送ってきてもいいよ、と言ってもらっただけで、充分うれしいです」
俺がもっと彼女のことが好きになり。恋するようになればいいのだけど。
でも今はやり取りをしていくしかないのだろう。
やり取りをしていくうちに、彼女が俺のことを嫌いになるかもしれない。
今の彼女は、俺のことを、幼い頃のいいイメージのままで想っているから、そのイメージと今の俺に大きな違いがある場合、逆に大嫌いになってしまう可能性だってある。
その場合は、幼い頃の楽しい思い出まで壊れてしまうかもしれない。
しかし、それでも俺達は進んでいくしかない。
俺だって、彼女に心はこの一日で傾き始めている。それだけ魅力的な子なのだ。
このままいけば、恋人どうしになれるような気がする。
とにかく、これから彼女と同じ時を過ごしていくことが大切になってくる。
「おにいちゃんと、平日の夕方や夜、一緒にいられないと思うので、ルインだけじゃなくて、時々は電話してもいいですか? 一緒にいられないのであれば、毎日夜電話したいんですけど、それはまだ無理ですよね。おにいちゃんに負担になっちゃうと思いますので」
さっきの話で、平日は、俺の家に作りにこないことになった。そうすると、一緒に帰ったとしても、途中で別れることになってしまう。
紗緒里ちゃんは、それを残念に思っているのだろう。
少しでも俺と長く接していたいのだろうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます