第12話 俺の新たな門出


 俺は玄関の前に立つ。前までは見たくも無い程に毛嫌いしていたというのに。自分の意思で、覚悟を持って今俺は立っている。


「ふぅ……」


 ドクンドクンと、心臓の鼓動が徐々に高鳴る。

 多分、無理やりではなく自分の意思でここまで来た……ということの緊張が半端では無いからである。


 後、数歩という短距離で外の世界が待っている。そう思うと簡単そうなのだが、引きこもりにとってそれは果てしなく遠く見える。


 なぜなら、これまで引きこもって来た1秒1秒の全てが俺の足に深く絡み付き、身体を硬直させるからだ。そして心を不安と緊張でいっぱいにさせるからだ。


 すると、不意に『────お前は行くのか?』と、誰かに囁かれた。


「え……!?」


 父、母、姉の……家族でも。愛葉や蒼太の……幼なじみでも無い。だが、よく知る……俺にとっては馴染みのある“声”だった。


 咄嗟に声のした方向に振り変えると、家の暗闇の向こう側(俺の部屋がある方)に、前の俺……ガリガリで、やせ細った身体のが立っていた。


 え……?はぁっ?( ゚д゚)


 意外と直ぐに冷静になれたものの、初見での驚きはそれなりに大きかった。


 久しぶりに見た白は見るからに不健康そうで、一応同一人物の茉白と比べると……明らかに、雰囲気が違っていた。姿も性別も……性格以外の何もかもが変化しているので、俺らしさは微塵も感じさせないのは当たり前なのだが。


 恐らく今ここにいる白は、俺の中のもう1つの感情が茉白を守る為に出て来てくれたのだろう。


 ……さっきまでは勢いだけで外に出ようとした。

 結局、“勢い”というスキルは強いのだから。 だが、目の前に出てきた白のせいで俺は踏み留まった。あ、違うな……踏み留まざるを得なかったのだ。


 勢いだけでそんなことをしても無駄だって言いたいんだろう。俺お得意の“その場しのぎ”って言うやつなんだろう?


 ──結局、白で頑張った結果で“あれ”なんだ。

 挫折という1度味わった恐怖は、俺の心の根に深くまで染み込んでいた。そしてこれを乗り越えるためには、単純な勢いでは無く……これまで以上に強い芯を持たなければならないのである。


 冷や汗をかき、固唾を飲みながら再び白と目を合わせると、今度は疲れきった目でじろりと睨まれながらもう一度『行くのか?』と聞かれた。


 ──あ、あぁ。


 心の中で答え、頷く。

 すると、白は大量の感情を流し込んでくる。


『無理だよ!?』『外は怖いよ!?』『姿も変わったんだから一層危ないよ!?』『もう外は嫌になったんだろう!?』『絶望したんだろう!?』『だから、逃げたんだろう!?』


 一気に、心を揺らがせるほどの感情が怒涛のように流れ込んで来る。心の最後の防衛本能とでも言えばいいのだろうか?それとも……まだ俺の覚悟が足りないのだろうか?

 徐々に心は抉られていく。


 ──違う。違う、違う!俺は行く、幼なじみの2人と高校生になるんだ!


『なってどうする?』『どうせ、失敗する』『挫折して終わる』『やるだけ無駄だぞ』『今更頑張っても無意味』『それに、家族の経歴は決して越えられないぞ?』





『──────だから、引きこもったんだろう!?』






「…………っっ!?」


 どんなに抵抗しても、ほぼほぼ無意味で遂には…………辛いな;:(´﹏`):。と、やる気そのものが無くなって行った。

 流石は自分だ。言ってくる言葉が本当に的確で、急所を連続で突かれてる気分だ。


 ──もう、やめちゃおうかな。


 いつの間にかそんな気分にさえなっていた。

 感情で負けそうになったいたのだ。それほどまでに引きこもりの……白の感情は強く優先度が高いのである。そして茉白の感情が不安定で不確定なのである。


 今ここで諦めたらどこまで楽なのだろうか。もう一度、引きこもり生活になって気楽な生活を送れるのだろう。ゲーム生活、マンガ生活、このままずっと、ずっーっと。

陰キャでコミュ障で童貞で、親のスネをかじるクズで……


 ガタガタと、感情が負け始め、心も身体も拒否反応が出始めた。負けたくないのに、諦めたくないのに、どうしてだよ。さっきまで確かにあった“覚悟”まで参ってしまう。


「…………っ!?( ゚д゚)」


 自然と俺は泣き出していた。ここまでのチャンスがあるのにも関わらず、勇気を持てない自分が悔しかったのだ。(;ω;)悔しい、どうして俺はそんなにも無力なんだ。




「「茉白!」」





「あ……っ」


 愛葉と蒼太が自然と手を取ってくれた。


「「大丈夫」」「俺が、」「私が、」「「隣にいる!」」


 2人から温もりと言う名の“勇気”を貰った。


 そうだった。何忘れてるんだよ。俺はもう決して1人なんかじゃない。大切な幼なじみの存在に気付けたんだ。決して孤独なんかじゃなかったんだ。


『でも、それは永遠じゃないだろう。ずっと一緒というのは物理的に不可能だろう?』


 ──そう、だね。違う……くはないよ。


 俺はいずれ愛葉にも、蒼太にも頼らずに自立しなければならない。多分、辛く険しく、長い道のりだろう。


 だけど、それが人生の“醍醐味”っていうものなんだろう。それを味合わないで引きこもるなんて正直、勿体ないよな?


 ポジティブに。ネガティブはダメだ!


 俺は1歩、また1歩。順調に歩を進め……後1歩で外という所で立ち止まり、白の方向へ振り返った。


 白は心配そうに俺を見つめていた。だけど、もう止めようとはして来なかった。


 ──ここから俺はリスタートする。白では無く、茉白として。男の俺が、女の私として。


『いいのか……?』

「あぁ。大丈夫だよ」


 今ここで自分自身を乗り越える。そして行くんだ!愛葉と蒼太と一緒に、高校へ!


『…………そう、か。ならいい』


 ──ありがとうな、白。今まで俺を守ってくれて。お前が居なかったら、俺は俺で無くなっていたかもしれない。後は茉白に任せてくれ。


『…………』


 白は覚悟の決まった俺を見て( ・́∀・̀)ヘヘヘと笑うと……最後に。『がんばれ、茉白』と、背中を押すように応援してくれた。


 ──あぁ、頑張るよ白。だから見ていてくれ。俺の新たな門出を。『高校』という新たなステージを。


 今度はもう1人で背負い込まない。だって俺には幼なじみという繋がりがあるから。だから、自由気ままに、楽しく、そして平穏な高校生活を送るんだ。友達と……幼なじみと……そしていつか出来る恋人的な人!?と。


 まぁ、これから中学の遅れを取り戻すために死ぬほど努力しなきゃならないんだけども。でも、でも。俺は大丈夫だ。


「──さぁ、行こう!」


 俺は自信満々に最後の1歩を踏み出した。

 ここから始まる。俺の新たな物語を信じて見ていてくれ。


 ──────そして、さよなら…………“白”









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