第8話 卒業式に咲く一輪の花
「……っ」
教室に入った瞬間に、すぐに俺を迎えたのは“静寂”。
俺はもう少し……暖かい目をしてくれると思っていた。
だって愛葉と蒼太が前々からクラスメイトの期待値は高いって励ましてくれていたから。
だけど口をあんぐりと開け、静寂を持って皆に迎えられ……俺は反応に困った。
えっと……やっぱり、邪魔だったってこと?
俺って嫌われ者だったってこと?
今更来ても全く無駄ってこと?
プルプルと拒否反応が出て震える身体。……当然だ。
クラスメイト達は何も言わない。だけどこれまでの経験上で皆が俺に何を言いたいのかが分かってしまうのだ。
だって、そういう事なんだろ?
だから静寂ってことなんだろ?
口をあんぐりとあけて煽ってきてるんだろ?
「──お、俺……邪魔だった?だったら帰るけど……?」
半分泣き目になりつつも俺は自分の意志を伝え、教室から出ようとした。だけど……そんな俺はすぐに呼び止められた。
愛葉でも蒼太でも無い。
彼女は……1度も話したことが無い、クラスメイトだった。
「ひ、久しぶり……所じゃないよね?し、茉白ちゃん!」
クラスメイト。しかもまだ茉白の名を呼び慣れないのか……かなりの違和感。だけど、それよも……彼女の声は俺に響いた。
「ひ、久しぶり……話すのは、初めてだよね……葉隠さん」
そしていつの間にか、コミュ障関係なく自然に言葉を返していた。
「え、私の名前知っててくれたの?」
「当たり前だよ、だって同じクラスメイトなんだからね」
俺だって曲がりなりにも、中学生なんだからな。
皆のことを名前ぐらい覚えるのは当たり前だ。
「…………ん?」
なんだか、俺の発言で皆の顔が少し火照ったような気がしたけど?
「──って、そんなことより。俺は帰れってことなんだろ?だから俺が1番あんなにも辛い静寂で迎えたんだろ?」
「「「それは、違うよ!」」」
今度は葉隠さんだけじゃなく、複数人のクラスメイトたちが声を上げた。
「じゃあ、なんでなんだよ!なんで俺にそんな周りとは違う反応をするの?俺って何かしたっけ?嫌われることをしたクズ人間だっけ?違うんだったら、もっと、もっとさ。普通に無難に気軽に接してよ。俺だけ腫れ物扱いしないでよッ!」
我慢してた。ずっと。
ただ“女の子”になっただけだってのに。
普通の“女の子”と決して変わらないはずなのに。
いつも粘っこく、鋭い視線で見てきて……たまには舐め回すような視線もあった。それに態度はあまりにもよそよそしいし。
俺は必死だった。
俺は女として、皆に認められたかった。
「それは、ごめんなさい。でも、しょうがなかったの。
だって茉白ちゃんはあまりにも……」
「あまりにも?」
葉隠さんはこの場の誰よりも顔を赤くし、か細くなる声を何とか保ちつつ声を振り絞った。
「────可愛すぎるんだもん!」
「あ……あれ?」
意外すぎる言葉に俺は呆気に取られた。
だから反撃で言葉をぶつけようと思ってたのに……頭の片隅にも残っていないや。
確かに俺は女になって可愛くなった。最初は自分でも惚れてしまうぐらいに。
だけど、ここ最近ずっと見て慣れていたこともあり、自覚を忘れていたのだ。
──俺が信じられないくらいの美少女だということに。
「茉白ちゃんは自覚が無いかもしれないけど、オーラが凄いの!目を合わせられないくらいッ!言葉を失っちゃうくらい。」
「え……いや、まぁ」
(⑉´ᯅ`⑉)おい、照れるわ。
「もう、思ってること全部言っちゃいますね!
茉白ちゃんはすごいの。自分に自信が無いみたいだけど、可愛さだけで全て解決出来るような……、とにかくすごいの!私だってこんな感情、同性に思ったことすらもなかった。だけど無理やりその扉が開かれるくらいのインパクトがあったのよ!」
「はっ、はわぁぁ(。>﹏<。)」
俺は乱れた心を何とか補強したく、周りを見た。
こんなに言ってくれるのは目の前にいる葉隠さんだけだと思ったからだ。
だけど、違った。
クラスメイト達は葉隠さんの言葉に賛同するように頭を縦に降った。
つまり……そういうことなんだろう。
──俺が今まで感じていた嫌悪の感情というのは、自分の想像の中のイメージだったということなのだろう。
自分の中で──今まで蕾のように閉じていた俺の心は、
一輪の真っ白な花のように──パァっと開いて咲いた。
「ありがとう──皆。俺を認めてくれて。こんな俺なんかに手を差し出してくれて。ありがとう、ありがとうッ!」
俺はようやく、無自覚に気づかなかったものに気づいたのであった。そして約1年半ぶりにクラスの一員になれたのであった。
☆☆☆
──俺はつい最近、一宮 茉白になった。
それは俺が男では無くなり、女になったから。
その事には自分自身で納得しているし、悪い気もしない。
だけど、今日だけは────戻ることにする。
「──卒業証書授与。一宮 “白”ッ!」
校長先生(俺が居ないうちに変わっていたので完全初見)が俺の姿に驚きつつも名前を呼んだ。
「っ……はい!」
陰キャながらも俺が体育館のほぼほぼ全てに届くような声を張り出せたのは合格点だ!
1年生、2年生、更に同級生。先生方や来賓の皆さん、親達。全員が全員。俺の姿に魅了されたのか、熱い視線を送ってくる。その中には家族や幼なじみ、クラスメイト達の応援の視線もあり、俺に強い勇気をくれた。
俺は自信を持って壇上へと上がり、堂々と卒業証書を受け取った。
そして、これまでのお返しに。皆へ向けて……最高の笑顔を送るのであった。
それはまるで卒業式に咲く一輪の花のように。今の俺にできる最大限を笑顔に込めた。
「──ぐはっ!?」
「──あぐっふ!?」
「──うぷっ!?」
「──尊ッ!?」
至る所で大ダメージを食らう音がしたが、まぁここは無視をしておこう。
そんなこんなで……俺の中学最後の“卒業式”が終わった。辛い日々も沢山あった。それは俺が1番よく理解している。だからこそ、その中での“幸せ”が際立つというものだ。
でも、俺は本当に良いクラスメイトを持ったものだ。
本当に、生涯自慢したいほどに!(´罒`)
でも、少し心残りなのが……もう少し、クラスメイト達と学校生活を送りたかったなぁ、ということかな。
まぁ、時間は有限。決して無限じゃないし、遡ったりもしない。
現実は現実で受け止めなければならないのだ。
そうやって、歩き始めなければならないのだ。
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