第9話 『幼なじみ』として……

 中学最後の卒業式。

 俺はクラスメイトの皆と出来る限り一緒に居て、これまでの“空白”を埋めるかのように語り明かした。


 そして……高校に進学しても、また会おうと約束をしたのであった。いつまで経っても“クラスメイト”としての絆は変わらないと誓ってくれたのだ。


 本当に俺には惜しいぐらいの……素晴らしいクラスメイトたちだった。


 ☆☆☆


 ──翌日。

 今日は待ちに待った高校受験の合格発表の日である。

 朝起きた時から、いつも通り気分は最悪。

 なぜなら昨日は夜遅くまでクラス会をし、帰ってからもその興奮と合格発表の緊張感で上手く眠りに入れず、ほぼほぼ徹夜状態と言っても過言では無かったからである。


「ふぅー、緊張感がいつにも増してエグいなぁ……」


 手鏡で顔を確認すると、目元には黒いクマがびっしりとあり、幼なじみの2人と朝会って早々に大心配されるほどだった。


 心臓はバッグバク。狂ったようにパンプしてくる。

 高校までの足取りは高校受験の時よりも重く、身体が……本能が……緊張に負けているのだろう。


「──自分的にはまぁまぁできた方なんだけどなぁ」


 自分の性格的に強い自信は決して持てない。だから、少し自信が持てるような言葉を発しても決して自信には変換されない。


 すると……


「大丈夫よ、茉白ちゃん!」


 愛葉がすぐに俺の言葉を補填してきた。


 な、何が大丈夫なの?(゜Д゜)

 まだ、ウカッテルカモワカラナインダゾ?


「いいよな、2人は特別推薦の枠に入ってるんだから!」


 既に受かってることが確定なのだから。俺の緊張感とか、そういう概念すら感じていないのだろう。


「いや、まぁ……一応、そうだけどさ」

「そんな事よりも、茉白ちゃんは本当にスゴいんだよ!」

「そうそう、堂々としてろよ。なんせ、茉白は高校受験に向けて全力で努力して、やりきったんだから!すごい頑張ったんだからな!」


 2人とも何一つ俺の“合格”を疑うことすらしない。

 受かっていると確信して言ってくれているのだ。


「……うっ。それはありがとう。2人の心強い協力あってこそ俺は高校受験に挑めたんだよ。感謝してもしきれないよ」


 俺が今後一生、2人に返さなければならない恩だ。


「だけど、俺には“ここ”しかない。滑り止めも受けてないし、もしダメだったら……」

「そういう事は結果を見る前に言っちゃダメだよ、茉白ちゃん」


 ブツブツと念仏のように自分を否定し出す俺に、愛葉はまるで教祖のように慈愛の心を持って抱きしめてくれた。


「っ……ありがとう」


 いつもの俺なら羞恥心が勝るので、嫌がったり逃げたりするのだが今日ばかりは素直に身を委ねた。

 その影響なのか……


「──ひひっ♡♡♡(*´ー`*)♡♡♡」


 なにかメスブタ?のような動物の声がしたけど、多分空耳だろう。


 ☆☆☆


 高校まで残り数百メートル。

 駅から降りて、歩く距離だ。


 その頃になると俺の緊張は限界を突破しており、小刻みに身を震わせる産まれたばかりの子鹿のようだった。


 でも、結果を見なければこの気持ちに終止符を打つことは出来ない。だから、向かわなければならないのだ。


 血反吐を吐きながら努力したんだ、過去1番に頑張ったんだ。少しはその努力に報われたいと思うのは当たり前だ。


「茉白のお義母さんも、お義父さんも……吉報を信じて待ってるから、笑顔で『合格』って伝えてあげようぜ?」

「そう、だね。もしも結果が良好だったら家族に笑顔で伝えてみるよ」


 蒼太の親の発音が少しのおかしかった気もするけど、もしも……もしも……合格していたのならば、俺は泣きながら親に感謝するだろう。もちろん、幼なじみの2人にもね。


「それにな……」

「ん、それに?」


 会話の途中で、言葉を詰まらせた蒼太。だけど数秒の間に覚悟を決めたのか……


「今言うことじゃないが、言わせてもらうぜ。

 もし、茉白が高校受験に失敗したとしたら……俺はこの特別推薦枠を蹴るぜ!」


「は?」


( ゚д゚ )


 蹴るってことは……もしかして、俺と一緒に1年間を無駄にするってことか?そこまでの決断を今の一瞬で?

 その決断力と大胆さと覚悟に尊敬の念すらも覚えた。


「もちろん♪私も一緒だよ」

「愛葉も!?」


 ここは拒否するべきだ。こんな俺でも流石に理解出来た。


「そんなのいらないよ!だって、こんな俺の為に大事な1年間をドブに捨てるなんてありえないよ!」


「ありえなく無いよ、茉白ちゃん」

「だな、茉白」


「え?」


「茉白ちゃんの居ない1年間よりも、」

「茉白と一緒に入学して卒業する。その方が大事なんだ」


「だって私は」「俺は」───

「「茉白(ちゃん)のことが大好きなんだから!!!」」


「…………‪っ」


 誰でもこんな美女とイケメンに告白紛いなことを言われたら動揺するに決まってる。多分『幼なじみ』としての“大好き”なんだろうけど。


 前までの俺だったらキョドって何も言えなかっただろう。だけど、今の俺なら──言えた。



「ありがとう……俺も大好きだよ。愛葉、蒼太」



「「はっわわ!?!?」」


 ♡(;゚ロ゚)♡ ♡(;゚ロ゚)♡


 俺の『幼なじみ』としての感謝の言葉がそんなに嬉しかったのか、2人はいつにも増して顔を赤くし照れているようだった。



 そんな幼なじみ同士の心温まる会話をしながら歩くと、数百メートルなんて本当に一瞬で……俺は高校に到着するのであった。


 さて、天国か地獄か……笑えるのか笑えないのか……

 ───────────────────勝負だ!!!

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