第10話 運命の合格発表


 俺は覚悟を決め、高校の敷地へと足を踏み入れた。


 前に来た時とそこまで場の空気感は変わらない……と思ったが、今日は前に来た時よりも周りの受験生達から発せられる緊張感の圧がとてつもないと感じた。


 でも、共感はできる。俺含め周りの受験生達はこの高校へ入る為だけにここ数ヶ月……ましてや数年単位で頑張って来ているんだからな。酷く緊張し、自然と圧を放ってしまうのは仕方のないと十分に理解出来ることだった。


 もちろん俺も緊張と圧を自然に放っているのだろう……

 まぁ、さっき愛葉にそのことを聞いてみたらチワワみたいで可愛いね♡って言われたんだけどねヾ(=д= ;)



「──うわ、なにあの子。すごく可愛くね?」

「──ん……どれどれ、って何あの子!?可愛すぎるやろ!?ハーフとかか?」



「あー」


( ー́∀ー̀ )


 まぁ、俺の姿に目を奪われる受験生も勿論数人居たけど。そういう人は大抵高校受験なんて楽勝〜♪組の人間であろう。そうじゃないと俺に見蕩れる余裕なんて無いはずだからな。


 ……なんて、その人達(愛葉、蒼太を含む)を少し睨みながら俺は進むのであった。


 ☆☆☆


「そうだ、茉白ちゃんの受験番号は何番なの?」

「俺たちのを確認し終わったら一緒に探してやるぜ!」


「あ、ありがとう。えっとね……」


 そういえば受験番号を確認してなかったっけ。

 俺は朝慌ててポケットに突っ込んだ受験番号を取り出した。


「俺の受験番号は“2022”だね、普通科だから2000番台だ」

「OK♪」

「分かったぜ、速攻で見つけてやる!」

「へー、望月くん競走ね」

「お、よく分かってるじゃねーか、勝負だ東雲!」


 そう言って、まるで無邪気に遊ぶかのように駆けて行った2人。


「ちょ、待ってよ!」


 それにつられ、俺も駆け足で2人を追った。






 まだ遠くてよく見えないが、校舎の入口付近に大きな特設掲示板が建てられ、そこに合格者一覧の受験番号が張り出されているようだった。


 既に合格発表がされたのだろう、合格して歓喜の声を上げる者。残念ながら不合格で悲嘆にくれ、泣き出す者。


 2択の顔をハッキリと見せる受験生達。

 結局、高校受験とは弱肉強食、席の取り合い、努力の差が緻密の差で現れ、才能の差、容量の差、運の差、山の張合い、その時のモチベーション、コンディション……様々なものが重なって結果となって実を結ぶ。


 分かっていたさ。

 分かっているからこそ……挑戦したんだ。


 俺はどちららの顔になるのか……

 それはもう既に結果としてあの掲示板に記されている。

 ほんの4桁の数字。だけど、それが心から欲しい。

 願いたい、俺がその内の一部に残っていると。


 もう、遠目からでも4桁の数字が見える。


 〜〜〜〜


 1004

 1006

 1007

 1008

 1011


 〜〜〜〜


 んーっと、ここは特進の科かな?



 俺はすぐに2000番の近くを探し、数秒後見つけた。


「ふぅ……」


 俺は息を整え、心を整え、覚悟を決め……前を見据えた。


 ────そこには、



 〜〜〜〜


 2002

 2003

 2004

 2007

 2009

 2010

 2014

 2017

 2018

 2020


 2022


 2024

 2025

 2027


 ~~~~


 俺の、受験番号がそこに……確かに、くっきりと、確定であった。


「っ……」


 最初は意味がよく理解出来ず、放心状態だった。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……まるで俺が美少女になった時のように、掲示板と受験票の間を目で行き来させた。


「え……あれ?受かってるのか?」


 でも、流石にこんな俺でも理解出来た。受かっているのだと。いつの間にか隣にいた愛葉と蒼太が俺よりも喜んで泣いている表情を見て、それは更に実感へと変わった。



「あっ……あぁっ」



 俺の中で確かに込み上げてくるものがあった。胸の奥底がグッと熱くなり、痺れる。全身の血管が喜びに震え、全細胞が歓喜し始める。


「やった……やったやったやったぁぁぁぁー!」


 心の底から俺は叫んだ。そして、現実でも叫んだ。

 陰キャとかコミュ障とかはもうこの際、関係ない。


 俺の頑張りは、努力は、覚悟は決して無駄ではなかったと。人間どんなに底辺に堕ちても、頑張り次第で何とかなると証明出来た。


 それだけで……それだけでっ………本当に。心の底から嬉しかったのだ。嬉しくて嬉しくて、嬉し過ぎたのだ。






 この日、俺は人生の最初の関門を突破し。

 今年の春から────“高校生”へとなる権利を手に入れたのであった。



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