第7話 俺の新しい名前



「でもスゴいね。可愛すぎるよ、白ちゃん~♪( ´,,•ω•,,`)」

「ちゃ、ちゃん付けはやめてよ、東雲さんっ!」


 すっかり打ち解けた……のかは分からないが、愛葉の距離感が妙に近い気がする。∑( ̄Д ̄;)


 愛葉は俺をしっとりと恋人の様に見つめると、頬を赤面させ、少し興奮気味に色っぽさを醸し出した。


 美人で巨乳という愛葉特有の武器。更に、ラベンダーの甘い香りが俺の心をじんわり刺激する。


 すると、愛葉は何を血迷ったのか!?「えい♡」と、その豊満な胸を何の躊躇もなく俺の顔面に押し当て、抱きしめて来た。


 え、え、え、どういうこと?

 今度は俺が状況の理解が出来ず、上手く反応が出来なかった。だからかわすことも出来ず、抵抗することも出来なかった。


 ……さ、さ、最近のJC女子中学生って、ここまでやるのか!?す、すごいなぁ。!(๑•∀•๑)!



 って、感心してる場合じゃないだろ!?これは一体どういう状況なんだよ!?


「し、東雲さん!?」

「“愛葉”で、いいんだよ。私と白は幼なじみなんだから」

「ちょ、それは違っ……」


 今はそんなことよりも、この抱きしめが問題なのだ!


「あー、それとも何か別のあだ名を考えてくれてもいいよ!」


 違うんだって……っっ!!( ; ˘•ω・):


 この人、俺が元男だと言うことを既に忘れてるんじゃね?それぐらい、女の子らしからぬ大胆な行動だった。


 こんなの、幼なじみ相手にとる行動じゃないぞ!?


「うぷっ、そういうのじゃなくて、」


 ぐっ……嬉しさと苦しさで息が苦しいっっっ!

 嬉しさ7:苦しさ3という具合だ。


「あぁ……距離感が近いって?」

「そ、そ、そ、そうです!それに、胸が……っ」

「いいじゃん、いいじゃん。今は女の子同士なんだしね!私は全然気にしてないから!」

「あぁ……そう、ですか」


 これが女の子同士の距離感というやつなのだろうか?それとも単純に陽キャだからこそのテクニックなのだろうか?まぁ、とりあえず、なるほどわからん。(;´∀`)


「オイオイ、白は女になっても一応は男なんだぜ。いきなりそんな大層な武器を使われたら驚いちまうのも仕方が無いぜ!」


 そう言いながら颯爽と現れた蒼太は、愛葉の甘い抱擁から助けてくれた。


 カッコイイ見た目。イカしたセリフ。引き締まった肉体。全てがモテる要因となる男だと、風の噂で聞いたことがある。まぁ、俺は男だから何も感じないけどね。


「……って!」


 でも、やはり愛葉同様、距離感が妙に近くて……蒼太からチャラさを感じさせる。肩を自然と組まれ、まるで男友達のようだ。


 一応ね、俺って女になった訳じゃん。だから、流石に距離感がバグってるぞ。俺は女で、蒼太は男。色々とおかしい距離感である。


 恋人でもあるまいし……


「コラー、望月くん!白ちゃんに近付きすぎだよ。白ちゃんは女の子になったんだから、いつもの調子で接しちゃダメでしょ?」


 そう言いつつ、蒼太から俺を引き剥がした愛葉はもう一度自分の元へグッと引き寄せ今度は我が物とするかのようにギュッと激しく胸に抱き寄せて来た。


 2つの豊満な胸が俺の頬にしっとりずっしりと当たり、最高に幸せの気分になれるが……俺も今は女って訳だし、なんだろう。祝福の感覚なのに、幸福感が普通に少ない気がする。( ´・ω・` )


 女になって、徐々に男の感覚が無くなっているからなのだろうか?そう思うとかなり恐ろしいかもな。∑( ̄Д ̄;)




「──あ、そうだ。白ちゃんは女の子になったんだから、呼び方を変えるってどうかな?」


 すると、顔が埋もれて喋れない俺を無視し、そう提案した愛葉。


 え……別に、わざわざ名前を変える必要は無くね?

 名前も中性的な名前な訳だし。


「それはありかもな。白は白でもいいんだが、姿と名前が一致しないのは少し気になるんだ」


 えぇ!蒼太も賛成なのか?

 てか、そんなに前の俺は前の俺。新しい俺は新しい俺で分けたいのか?切り替えたいのか?今の俺は好きだが?昔の俺は嫌いだとか?そういう理由か?


 まぁ、名前が変わったら流石に俺も新たな門出として歩け出せそうでもあるから淡い希望は若干持ってるけど。


 だけど……この名前は15年間大事に使ってきた名前なんだぞ、そう簡単に変えられるほど簡単なことじゃない。




「──ここは“琥珀ちゃん”でしょ!」


 すると、突然参戦してきた姉が躊躇いなく名前変更を申し立てた。


「いーや、白は白でしょ?なぁ、母さん。家族なんだもんな」

「お母さんはね、皆の決定に合わせるわ。だってその方が面白そうだもの」


 あ、父と母もしれっと参戦して来た。

 オイオイ空気を読んで場を離れたんじゃなかったのか?

 この参戦の仕方的に絶対に聞き耳立ててたじゃん。(-∀-)




 今の状況を整理するに、幼なじみの2人と姉は名前を変えた方がいい派で、父は変えない方がいい派。母はどちらでも任せる派。


 俺は変えない方がいい派だから……


 結果は3対2対1。

 ってことは名前を変えなきゃ行けないのか?


 いやいや、流石に本人の意思が優先されるだろう!?


「ちょ、自分の子供の呼び名を変えるんだぞ!?多分、国に手続きする時はその名前になるんだぞ!?」

「だから、皆が気に入った名前にすればいいのよ。そうすれば皆ウィンウィンよ!」


 父も流石に反論するが……この家の最大の決定権は母が持っている。つまり……母が仲介役に立ったということで、第一回俺の名前を決めよう会議がスタートすることになった。


 ☆☆☆


「白ー!」

「琥珀ちゃんっ!」

「シロエもん!」

「ホワイトっ!」

「白ーだぞー」

「白狼!」

「ハクハク!」

「琥珀ちゃんっ!」


 家のリビングに俺の新しい名前候補が飛び交う。


 全員が全員、俺の事を真剣に考えてくれて真面目に話し合っていた。


 って、誰かふざけてるヤツいるなぁヾ(`Д´)ノ!?


 でも、全員が全員。違う名前を俺に付けたく、会議は難航した。


 ──そして1時間が経過し、それぞれが満身創痍になってきた頃。


「うーん、だったら。茉白ましろちゃん……ってのは、どうでしょう?」


 唐突に愛葉の口から出て来たその”茉白“という名前。

 俺的には……まぁ、いいんじゃね?と思えるぐらいの良い名前だった。


 名前の響きも悪くないし、自分の名前も使われてるから呼び慣れにくさもあまり無いだろうし。何より、自分が直感的に気に入ってしまったのだ。


「おぉ、それいいな愛葉」


「お、俺も。まぁその名前だったらいいかも」


 蒼太の言った流れに乗って俺も突如として参戦した。


「はっ、白!? 確かに悪くない名前だがいいのか?今後の将来に影響してくるかもしれないんだぞ?」

「うっ、うーん。まぁ、その時はその時でまた何とかすればいいや」

「父さんは心配でならんぞ……」


 やれやれと、どうやら諦めた様子の父。すまない。でも俺の為にありがとう。


「おねーーちゃんは、ずっと琥珀ちゃんだからね!」

「はいはい、」


姉に塩対応をした母は手を叩き、会を閉じると。


「じゃあ、決まりでいいわね。流石、愛葉ちゃんいい名前提案するわね!」


「え、あ、はい。ありがとうございます!」


 愛葉は少しテンパりつつ、“感激です”と言った表情を作った。



 という事で、俺は今日から名前が茉白になるそうです!

 皆、よろしくね!








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