第8話 愛葉の恋
東雲 愛葉はずっと、ずっと、ずっと、恋をしていた。
相手は……愛葉にとっての大切な存在の────幼なじみだ。
もちろん、望月くんなどではない。そもそも望月くんを自分の“幼なじみ”だと認めた事は1度もない。多分、望月くんも同じだろうが。
愛葉の唯一の
彼とは幼稚園から小学校、そして中学校までずっと一緒で、クラスも同じで。家も近くで。愛葉の定める幼なじみという条件を余裕で満たしていた。
──だが、愛葉は幼なじみをただの幼なじみだとは思っていない。1人の大切な相手、そして恋心を向ける相手だと……思っている。
多分、彼は覚えていないだろうけど……愛葉の昔は明るくもなく、地味なメガネを付け、ハッキリ言ってブサイクで、貧乳で……今の
一般人C、脇役、観客、弱者、ザコ、その他。
そんなどこにでもいるモブだった。
そんな愛葉が……変わろうと思えたきっかけは小学校高学年の頃まで遡る。
☆☆☆
一宮 白という1人の幼なじみが愚直に、真面目に、物事に立ち向かっていた。
それを愛葉はただただ見ている事しか出来なかった。それぐらい彼には凄みと気合いを感じていたからだ。それに彼とは物心ついた時から喋っていないし、関わりもなかった。
一応、幼じみ?と言うのだろうが、その頃の愛葉は特に気にしていなかった。まぁ、彼も……悔しいけど愛葉のことは眼中になかったと思うし。
……だけど、愛葉が小学校高学になった頃。
悲劇──いや、愛葉にとっての“転機”が訪れる。
愛葉は早めの成長期の影響で、周りの女子よりも発育が良かった。そのため小学生の女子の中では高めの身長になり、小学生離れの膨れた胸。幼さが消えた美人な顔立ちに成長した。
愛葉には地味目のメガネでも隠し切れないくらいの圧倒的な“美”が備わりつつあったのだ。
だけど、その備わりつつある“美”は奇しくも悲劇へと繋がってしまう。
ある日、友達と別れた愛葉は帰路についていた。
今日は珍しく、日が落ちるのが早く。暗い静かな住宅街がいつもより早く静寂と暗闇に包まれていた。
だからか……怖がりな愛葉はブルりと嫌な寒気を感じた。こんな日はさっさと帰った方がいいに決まっている!
友達と話す為のゆったりとした歩き方から、急いで帰る早歩きに歩行を変えた愛葉は最短で自宅を目指した。
「──ぁ……」
だが、そこに立ち塞がるように、ゆらりと。まるで亡霊のように現れたのは……ボロボロの服装、ボサボサの髪、そして無精髭の男だった。少しだけ漏れた月明かりで見える顔は完全に血走っており、目線は愛葉の胸元に固定されていた。
「……っ」
顔が見えた瞬間、恐怖を感じて逃げ出そうとした愛葉だったが、既にターゲットをロックしている男は愛葉を決して逃がさなかった。
「ひぎゃぁぁぁぁっ!女だ!女だ!女だっっっ!しかも、特上だ!」
後に捕まるこの男は、万年刑務所へ服役する強姦犯であった。女……特に女子中学生が好みの強姦犯は、愛葉のただならぬ魅力に我慢が出来なかったのだ。
ヨダレを垂らした強姦犯は、本性をさらけ出しながら愛葉を強い力で押し倒すと、そのまま馬乗りになった。男(大人)VS愛葉(小学生)……愛葉に勝てる訳が無い。
恐怖で心を支配された愛葉は叫ぶのも忘れ、ただ泣きながら震えることしか出来なかった。
「では、オープンや!」
そうノリノリで胸元の服を引きちぎられ、顕になった愛葉の豊満な胸。
「うぐっ……」
「はぁ、はぁ、はぁ、女……女っっ!やっぱし、堪んねぇなぁ。それに美し過ぎやろがい」
性欲にまみれた強姦犯は
あぁ、ああっ!
恐怖と失望と絶望と悲劇と……全ての負の感情が愛葉を支配する。
狭まる視界。少しでも心にダメージが行かないように、精神に異常をきたさないように。本能が今の現実を拒否したのだろう。
もう……ダメ。誰か、誰か──助けてッ!救ってッ!
そう強く願った。それぐらいしか今の愛葉に出来る術は無かったのだ。
「じゃあ、早速。イタダキまぁa──」──バゴッ!!!
もう終わりだ、ダメだ!と諦めた瞬間だった。強姦犯の声が急に途切れた。そして先程まで押え付けられていた両手の力が急に緩まった。
えっ??? ( ºΔº )???
まだ目は怖くて開けられないが、強姦犯に何かが起こったのは確実だろう……?
数秒後に、ドサッという強姦犯……?が倒れる音と共にゆっくり、慎重に愛葉は目を開けた。
すると、目に映ったのは幼なじみの……一宮 白が強姦犯を一撃で気絶させて愛葉から引き剥がしているという痛快な光景だった。
運命とは酷く、残酷だと呪った。だって、こんな事が実際に起こったら一撃でトラウマもんだからだ。だが自分の危機的状況に颯爽と現れてくれた彼は愛葉にとって……間違いなく理想の『王子様』にしか見えなかった。最悪なトラウマなんて一撃で描き消してくれる程のインパクトが今の彼にはあった。
「あぁ、あああっ!」
涙が溢れた。絶望の涙では無い。嬉しさ、そして感謝の涙だ。愛葉はこの時から彼に、彼だけに夢中になってしまったのだ。
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