第9話 幼なじみの歪んだ愛


 ……でも、いつからだろうか?

 彼が1人で迷い始めたのは。結果に執着し始めたのは。自分自身の不甲斐なさに押し潰され始めたのは。


 愛葉は助けられなかった。だってその時は、弱くて脆くて勇気が無かったから。彼の全てを支えてあげられる程の自信と度胸なんて皆無だったから。

 ──そして、単純に彼への愛が足りなかったから。


 それが愛葉にとって一生の後悔となる。結果、彼は“引きこもり”となってしまったのだから。外の世界というものを彼は完全に遮断してしまったのだから。


 沢山、後悔した。後悔して後悔して、後悔した。

 どうして自分は前に出られなかったのだろうと。

 彼は王子様で、生涯の愛葉の“夫”であるというのに。


 そうして、悔やみながら愛葉は学んだ。

 ただ相手を“好き”になるだけじゃダメなのだと。

 待つのではなく、自分から。相手を知って、相手を感じて、相手に近付いて、相手に振り向かせて……そのぐらいしないとダメなのだ。


 周りの目?(ꐦ°᷄д°᷅)はぁ?どうして気になった?たかだか数年の短い付き合いの周りと、これからも長年一緒の幼なじみ。優先順位は分かりきっているはずなのに。




 ──強い後悔と懺悔の気持ち。その影響か?それとも元々愛葉の愛と欲が深かったのか?そんなのは分からない。だが、愛葉の“愛”という気持ちは別の方向へ、別の次元へと徐々にねじ曲がって行くのだった。


 ☆☆☆


 愛葉にとっての王子様、愛しの彼が目の前から居なくなってからの数年は、それはそれは辛く、悲しく、虚しく、憂鬱な日々だった。


 それでも腐らずに彼がいつ来てくれても構わないように髪を整え、メガネを外し、メイクをした。勉学も頑張り、スポーツも頑張った。彼がしたいと思ったことに遅れなく着いて行けるようにだ。


 そうしていくうちに愛葉は変わった。

“完璧”というものに。今では学校のアイドル的存在にまでのし上がったが……それでも愛葉の渇きは一切満足しなかった。


 ──────でも、今日。愛葉の運命は動き始める。


 茉白ちゃんとして生まれ変わった彼……いや、彼女と、また出会うことが出来た。そして仲良くなることが出来た。


 数年ぶりに話した彼女は、姿や声は変わっていても、優しくて少しお茶目で。可愛くて、カッコ良くて……愛葉の『王子様』だということに変わりはなかった。


 そのことにすごく安心した。もし、性格が色々と終わってたり、壊れてたりしていたら、ゆっくり時間をかけて自分の色に染め直さなきゃならなかったからだ。まぁ、それでも全然構わないというのが本音だったけれども。



 もう彼女には失望なんてしないし、幻滅もしない。愛し、愛し、愛しまくる。もう二度と、絶対に離しはしない!愛葉が責任を持って一生、守り抜くのだ。


「ふぅ、よしっと!(ง๑•ᴗ•๑)ว」


 頬を叩いて気合を入れる。これからはきっと忙しくなるからだ。でも、今までのつまらない中学生活に戻るよりも、これからの彼との生活の方が断然……数億パーセント楽しいに決まっている。充実したものになると決まっている。


 今度こそ始めるんだ。彼女と一緒に。私たちの2人だけの物語を。


 ……ふふ。たとえ、肉体的に結ばれることが物理的に出来なくなったとしても。その分、女の子同士なんだからフレンドリーにイチャつくことは出来るよね?ボディータッチは多めに出来るよね?距離感もグッと近くでいいよね?キスもハグも全然不自然じゃないよね?


 愛葉にとって性別問題は酷く不運なことであったが、プラス思考でポジティブに考えていけばいい。そもそも、彼女と居れるだけで常にハイでハッピーだから、マイナスだとかネガティブだとかの感情になんて絶対に陥らないけどね。


「この世でたった一人の。私だけの幼なじみなんだもん。

 だから、私のものにしたって全然構わないよね?いや、これが世間一般的普通で当たり前のことだもんね!」


 ……もう既に愛葉は手遅れの状態にまで愛がねじ曲がってしまっていたのだ。


 ☆☆☆


 愛菜の自室にて──




「はぁ、はぁ、茉白ちゃぁーん♡」




 幼なじみへと向ける声とは思えない程の、熱く火照った声が愛葉の自室に響く。そして微かな……ぴちゃぴちゃとした水音も続いて響いた。


 愛葉の手にはスマホで隠し撮りされた茉白ちゃん幼なじみの写真が映っている。それをトロトロに蕩けた目で眺めながら、今日も自慰に励む。


「っ♡、あぅ……♡♡」


 愛葉はほぼ毎日彼を想ってして・・いた。だけど、今日は特に我慢がならなかった。感情が、欲求が溢れに溢れた。だからいつも以上に濃厚に、綿密に、強烈に、沢山して・・しまったのだ。



 ──だからきっと、愛し合えるよね?

 大丈夫。茉白ちゃんの身体は幼い女の子だけど、心は立派な男の子だもの。愛葉にとっての王子様ということに変わりはないもの。


 でも、この熱い気持ちはまだ隠さなくちゃいけない。

 だって茉白ちゃんには早いもの。


 だから、しばらくはグッと我慢。茉白ちゃんと会えなかった日々を思えばこんなこと簡単に耐えられるはずだ。


 まずは茉白ちゃんの引きこもりを卒業させて、同じ高校へ進む。そして好感度を上げて徐々にあれやこれやを……ぐふふ。


 っとと。高望みは行けない。急ぎすぎてもダメだ。ゆっくり、じっくり……茉白ちゃんの“特別”になれるように。頑張ろう。


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