第二章 外へ歩きだそう!

第1話 破滅ルートへ直行かもしれない……


 俺が美少女になってから早数日。


 何日経っても、何日願っても、俺は前の細細ガリガリボディー(男)には戻れずに、相変わらずの銀髪ロリっ子美少女のままであった。


 本当はドッキリでしたーとか、冗談でしたーとか、ノリで変えちゃいましたーとか……理由は別に何でもいいから元通りの姿に戻して欲しい。まぁ、あの神様(自称)には戻してもらって許すついでに“おまけ”で顔面パンチをお見舞してあげるつもりけど。


 まぁ、そんな上手い話は一切無く、俺の淡く儚い希望は一瞬で消えたけれども。(´Д`)



 もう、なんだよこの可愛い顔。どこから見ても可愛い過ぎるだろ!?



 毎日思う。俺が可愛すぎると。毎日毎日、惚れ惚れしてしまうと。自画自賛などでは無く、ただただそれがこの世の真理であり、現実なのである。


 綺麗な艶のある長い銀髪。神秘的で整った顔立ち、華奢だが健康的な身体付き(ロリ)……その全ての要素が上手い具合に絡み付き、圧倒的な可愛さと美しさを生んでいる。


 更にオプションで声も良く、ゲームも上手いとか……

 これぞ、最強キャラと言うべき存在であろう。


 まぁ、一つ文句を言うと、俺の元となったキャラを前に姉から見せて貰ったけど……エロゲーのキャラクターじゃねぇーかッ!?(^∀^)マジでふざけんなよ?


 人気が余りなくてそこまで人に知られていないのがせめてもの救いだけど。




 まぁ、俺の現状の話は一旦置いておいて──ここ数日の俺は相変わらず家に引きこもってはいるが、自分の部屋には引きこもらずに家族と一緒に過ごしていた。


 今まで全くコミュニケーションを取っていなかったせいもあり、コミュニケーションを取れるという喜びに今の所盛大にハマっているのである。


 これは俺にとって大きな進歩で、そこだけは神様(自称)に感謝している部分なのかもしれない。きっかけが出来たのだから。


 ……そうして今の俺は、母から“女”として生きていく為に必要な当たり前のこと知識をイヤイヤ習っていた。


 例えば歩き方。男のようにがに股では歩けないし、全力で走ったりもしない方がいいらしい。


 次に言葉の使い方。男のように荒々しくなく、適当にでも無く、ただただお淑やかに、可憐に。更に一人称は

“俺”ではなくを“私”に変え、オレっ子は止めるように言われた。


 次に服の着方。女性用の下着の付け方やスカートなど、生まれて初めて着る服にも俺は慣れておかなければならない。俺が苦戦したのはスカート。なんでこんなにもスースーする服を着なくちゃならないんだ、こんなの服でも何でもないぞ!<(`^´)>ただの布だ。

 ブラジャーは……うん、今の所必要無いと判断された。(俺のサイズに合う物が今の所無かったからだ)


 最後にトイレの仕方。最大の関門であるトイレは、情けないが母にやり方を事細かに教えて貰った。そうしないと、また大惨事トラウマを繰り広げてしまうからだ。


 色々と情けない部分も多くあったが、元々知らないのだからしょうがない。「俺、男なのに……」と、愚痴を零し赤面しながら母の授業を渋々受けるのであった。


「私が教えてあげるよー、白ちゃん!」

「イヤです!」


 後、姉が積極的に俺に教えたがっていたが、姉だけは断固拒否である。俺を推し認定した時点でおかしくなった姉にはもう二度と頼らないと決めたのだ。憧れだとか、目標だとか……そんなものはもう1ミリも無い。ただただ姉に対して残っているのは、哀れみと失望の感情のみだ。




 それにしても思うが、うちの家族は俺に適応するのが早かったと心底思う。始めはもっと戸惑ったり、慣れずに気を使われたり、色々と大変なはずなのに、姉を除く父と母はもうすっかり俺に慣れたようだ。


 ☆☆☆


「──ほら。もう1回よ」

「うぅ……俺、男なのに……」


 今日も俺は女としての言葉遣いを母から教えて貰っていた。話してコミュニケーションを積極的に取ることは、俺のコミュ障を治す練習にもなるらしくヒーヒー悲鳴を上げながら頑張っている。( ๑´ ࿀`๑)


「違うでしょ、“俺”じゃないわ。“私”よ。これで5回目の注意よ。気を付けなさい」

「わ、分かりました。わ、私気を付けますㅇㅁㅇ;;」


 まだ全く慣れない仕草と口調にかなり戸惑いながらも、俺は言われた通りに仕草を整える。だけど、気持ちが着いて行けずに顔が若干引き攣る。


「まぁ、大分形にはなったけども……ハッキリ言えば、まだまだね」


「白ちゃんならどんな顔でも可愛いよー」


「うーん、そう……かな?俺……じゃなくて、私は結構頑張ってるんだけど(;´д`)」


「はぁーん。白ちゃんのギャップ萌え最高ぉぉ!可愛すぎるよー推し推しだよぉぉぉー!」


 ちょくちょく俺と母の会話に口を挟む姉を完全に無視しながら、俺と母はどんどん話を進める。


「さて、次は何をしようかしら」

「え……そろそろ、休憩は?」

「そんなの、必要ないでしょ?」

「うぅ……疲れたんだよぉ」

「白は“男”の子だもんね。男の子はこの程度のことじゃ、へばらないもんね?」

「酷いよ……母さん!」


「あー、困り顔の白ちゃん、映えてるよぉぉぉぉー!」


「あ、そうだ……白。ちょっといいかしら?」

「どうしたの?」


 そんな会話の途中で、何かを思い出した様子の母は冷や汗を垂らしながら俺に聞いてくる。「これからどうするの?」と。


「身体が急に変化したのだから、病院って行った方がいいのかしら?それに、性転換の申請書も国に出さなきゃ」

「う……た、確かにね(;´∀`)」


 でも、今の所身体の不調は無い。だから別に病院には行かなくていいと思うけど?


 って、性転換の申請書だと!?まだ、俺は女だって認めてないぞ!言語道断ってやつだぞ!?


「ていうか、もし全部を話したら……」


 人体実験とかされるかもしれない。それに、見世物にされるかもしれない。拉致監禁されるかもしれないし、最悪闇オークションで俺は売られて破滅ルートへ直行かもしれない。


 今の俺にとって外の世界というのは、魔界と同等なのである。


 俺の心からの嫌なオーラを全身で受け取り、心情を察してくれた母は取り敢えずこの話しを保留にしてくれた。


「まぁ、分かったわ。じゃあまずは勉強をしましょうね!」

「えー、もう勉強は嫌だよ。そろそろゲームがしたい」


 ログインしなきゃ、これまでの毎日の積み重ねが……途絶えてしまう。それに……もう勉強は限界だった。学校に行ってる時はまぁまぁの成績だったけど、今は引きこもっていたせいで勉強に全く追い付けていない。元から勉強は嫌いだったけど、引きこもりのせいで勉強嫌いに拍車が掛かったようだ。


「ゲームなら引きこもってる時に散々して来たでしょ?いい機会だから全部リセットしなさいな( *¯ㅿ¯*)」

「え……、それは色々とヤダよ。俺は変わりたいと思ったけど、全部が全部変わりたいとは思ってないんだ」


「はぁ……まだそんな甘ったれたことを言う白には申し訳ないけども、現実を伝えるわ」


 一呼吸の間を置き、親として子を正す覚悟が出来た母は俺に向けて現実を伝えた。


「──白、あなたは今年高校受験でしょ?当然のように家にいるみたいだけど、大丈夫なの?」


「───────────────あ……( ゚д゚)」


 完ッ全に忘れていた俺の現実。

 それは俺が今中学3年だということだ。


 ついつい引きこもりすぎて忘れていたけど、そうなのである。


 今は1月の中旬、高校受験まで残り僅かしか無いほぼほぼ絶望的な状況なのである。現実逃避をしまくって居たが、そんなにも追い込まれている状況なのである。


 あ……ヤバイかもな( ´•_•。)

 勉強もそうだが、人間関係もまだまだだし、そもそも美少女ロリっ子になったから色々とややこしくなっておかしくなりそうだけど?


 ──これって、マジで破滅ルートへ直行なのかもしれないぞ!


 今後の人生がどう転ぶかはまだ俺には予想すらも出来ず、ただただこの現実からどうやって逃走するべきか、考える一方の俺であった。

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